……いやいやいや。
…………えっ?
「………すっごい、驚いた顔してる」
「っ……当たり前です!!それに、驚いたを通り越して軽蔑しますよ!?」
「……なんで?異性に性欲を覚えるのは人間の生理現象の一つで本能ってものでしょう」
「可愛い奥さんがいる癖に不誠実な発言だって言ってるんです」
「発言しただけであって行動したわけじゃないのに?」
「先生が行動しなくともそう言う一言に惹かれちゃう女の子もいるって言ってるんですよ!」
「ピヨちゃんみたいに?」
「っ………」
ああ、冷や水。
頭に上っていた血が一気に引いてヒヤリとする。
今まで攻め立てていた言葉が全て自分に跳ね返る痛みまで。
薄々……分かっていたのだ。
【縋った】とか【泣きついた】という昨夜の事実を語られた時点で。
きっと、私は自分の不誠実な恋路まで懺悔するようにこの人にぶちまけたのだと。
あろうことかこの人に。
一番、無垢な頃の印象で留まりたかった相手だったのに…。
最悪だ。
「ピヨちゃん、」
「っ…軽蔑しますよね!?」
「いや、俺は…」
「ってか、しましたよね!?して当然です。しかも自分を棚に上げて何偉そうな説教かましてるんだって呆れて当然なんですっ!」
「あのさ、」
「わかってますっ、最低なんですっ」
なんてヒステリックな自己防衛の仕方だろうか。
先生の言動に痛みを覚えるより早く自ら痛みを刻みこんで。
みっともない。
そう思うのに、先生への羞恥心が勝って暴走してしまって。
ああ、痛い。
まだ、乾いてもいない傷口を抉る様な自傷行為は実に痛い。
それでも、先生にその軽蔑を向けられるより自分で抉る痛みの方が断然マシだ。