会いたかったけれど。
もう一度この姿に癒されたかったけれど。
昔みたいな純粋な感覚で過ごせる筈がなかったな。
酔ってまともな頭でなかったにしろなんて愚かな行動であったのか。
改めて昨夜の自分に辟易としながら、綺麗に畳まれていた自分の衣服を身に着けると気を取り直して先生に向き直る。
そうして、深々と一礼をしながら。
「昨夜は大変ご迷惑おかけし、さらには介抱、宿泊と重ね重ねお世話になりありがとうございました」
「……いや、俺とピヨちゃんの仲だし」
「……今この場で何もお返しできないのが大変心苦しいのですが、とりあえずこれにて失礼させていただきます」
「………」
どんな仲だよ?と突っ込みたい気持ちは腹の中で静かに消化。
突っこんだところで自分にとっては苦い思いにしかならないだろうと予防線。
だからこそ、さっさと最低限の感謝を示すと先生の横を抜け唯一の扉にその足を向けた。
……のに、
「っ…!?」
「………どこ行くつもり?」
不意に腕に絡み付き引き止めにきた力は少々強い。
それには流石に驚愕で振り返り、発せられた一言には更に驚愕。
何が一番驚くかって、間違っても逃すものかと言わんばかりの握力だろうか。
問われている言葉も意味が分からない。
どこも何も……
「帰りますけど?」
「どこに?」
「いや、自分の家に…」
「いや、ここがピヨちゃんの家だから」
「………はぁぁぁ?!」
いやいやいや。
いや本当。
常々よく分からん人だとは思っていたけれど、ここまで訳わからん問答をしたのは流石に初めてだ。