かと言って、すでに大人な自分が怒られている子供の様に萎縮して言葉を失う筈もなく。
「………男だなんて。先生の前じゃないですか」
「……先生も男なんですよ」
「………」
それは……どう捉えていい発言なんでしょうか?
ただ単純に、先生を男扱いしなかった事への深みのない切り替えしであるなら別にいいのだ。
それでも、そうではなく異性なんだという深みのある忠告であるなら実に危うい。
その判断をつけたいというのに先生という人はまったく感情を読ませてくれぬ無表情であるのだから実に困る。
ああ、でも、だったらこの発言を逆手に取ることで切り抜ける道もあるじゃないか。
見落としかけていた抜け道を見つけてしまえば間抜けに開いていた口元も弧を描き。
フフッとあしらう様な笑い声で反撃に切り出すと、
「先生は……男じゃないでしょう?」
「………」
「素敵な奥様のいる旦那さまじゃないですか」
「………素敵と言うより……可愛いが適切な気がするけども」
「ほら。そんな風に惚気るくらいなんですから。あんまり奥様泣かせな言動行動は慎んだ方がいいんじゃないでしょうか?」
「何がどう泣かせる言動行動になってたのか分からないが…、まあ、ピヨちゃんがそう言うのなら以後気をつけるよ」
「そうしてください」
先生の為にも、可愛い奥様の為にも、何より私の為にも。
ただでさえ数年に渡る恋を手折った痛みで傷心なのだ。
そこにわざわざ過去の恋情の痛手まで追体験するほどマゾじゃない。