無表情で不愛想で。
なのに、どこか悪戯に甘くて優しくて。
昔から甘え下手で強がりで意地っ張りの可愛くない子供だった私をさらりと理解して甘やかしてくれた人。
甘やかすと言ってもベッタベタに撫でて愛でてと言うわけじゃない。
ただ、私の強がりを見抜いて『頑張ったね』と頭を一撫でし、ご褒美の様に飴玉を一つくれるのだ。
笑顔もない無表情で。
なのに、どうしてか自分には誰よりも甘く優しい人だと感じて。
幼心にも『好き』だと恋情を抱いたのだ。
変わってない。
今も変わらず悪戯に甘くて優しい。
それでも、その甘さに苦みを感じたおかげで目が覚めた。
うっかり混乱から幼心まで回帰していたけれど一気に引き戻された。
どんなに甘かろうが苦みが伴う人であったじゃないか。
手が届かぬ人だと諦めたんじゃないか。
まさに、違う相手でその不毛に足を踏み込んでみて、結果手が届かぬと再認識して手折って来たんじゃないか。
何を甘い記憶だけ拾って浸って浮れていたのか。
そんな冷静な理性が舞い戻ってしまえば一瞬にして懐かしさや羞恥さえも飛んでしまうというもの。
『ピヨちゃん』なんて純粋だった自分はもういない。
今の自分は大人を踏み外した『日陽』じゃないか。
「……先生、」
「ん?」
「昨夜、私と寝ましたか?」
「生憎、ベッドはこの一つしか…」
「私を抱きましたか?と、聞いてます」
最早言葉を濁すでもない。
それを問うのに躊躇いも恥じらいもない。
散々人としてのモラルを踏み外したような恋を続けて来ていた自分が何を今更純粋無垢な女を気取っていたのか。