なのに目の前のこのお人と言えば『うるせぇ』と小声で漏らし片耳を押さえながら舌打ちで流すという態度の悪さで怒りを煽り、更にヒートアップする女性陣に面倒くさいと言わんばかりに発した言葉は、
「アシスタントクビにするぞ」
そんな一言。
一瞬にしてシンッと静まったフロアの面々は正直だと思う。
さっきまで威勢の良かった彼女たちがこぞって無関係を示す様に目線を外し口を閉ざして各々の仕事へと戻っていく。
この瞬間にいつも改めて彼という存在を再認識させられる。
彼は態度の悪い嫌われ者。
でも、仕事の上ではそんな意識を無効化させるほどリスペクトされる存在であるという事。
デザイン部のエース。
正直この会社の儲けは彼の存在失くしてあらずと言える程、彼がデザインした下着からルームウェアに至るまでは外れなしに売れ行きが良いのだ。
どんなに性格に難があって、どんなに嫌われ者であろうが彼の仕事と形を為したそれはどの女性の心も掴む。
さっきまで詰っていたスタッフの女性陣の心さえも。
そんな魅惑的な下着をデザインから生地やレースの選別、更にはサンプルの縫製までこなすのがこんな不愛想な男だなんて、世の中の購入者は思いもしない事実であろう。