授業が始まれば、心をかき乱されずにすむ。と思ったら大間違いだ。
ユイくんと私は席が左隣り。前には莉奈がいる。
「あ、」
やってしまった。
右を咄嗟に見るが、1限目にもかかわらず右の子はしっかりと夢の中。
莉奈、と小声で呼ぶと振り返る。
「どうしたの?」
「教科書忘れた、というか…予定表見間違えてる。助けて」
「は?」
なんという失態。あれだけ確認しておいて見る場所が違ったなんて…。
「私はなんにもできないから…棗くんに見せてもらえば?」
「へ?」
ユイくんに?
それだったら頑張って教科書無しで授業受けると言いたいところだが、古文の授業はそうはいかない。
しょうがないなぁ、と言って助けてくれると思っていたら莉奈は 棗くん、と呼んだ。
「どうし…あぁ、忘れちゃったんだ」
一瞬で状態を把握したユイくんは小さく笑った。
「自分で頼めないって言うから…見せてあげて」
頼めないとまでは言ってない!と言いたかったが今は授業中。心を落ち着かせる。
「見てもいい?」
「いいよ、机寄せる?」
そう言って、ユイくんの方から寄ってくる。
「ありがと」
「どういたしまして」
これでやっと授業が受けられる。
と思ったが近くて集中出来ない。
横をちらりと見るとユイくんの綺麗な顔が視界に入る。いつも授業中は意識しないように頑張っていたけど今回ばかりは無理そうだ。
心臓がいつも以上に激しい。
色素の薄い髪は少しふわふわしている。綺麗な瞳は真剣そうに黒板を見つめていて。
窓の外桜の木はいつの間にか緑に変わっている。
ユイくんって、儚いなぁ…。
ふとそう思った。直ぐに消えてしまいそうな、壊れてしまいそうな。
「くっく…那月見すぎだよ」
突然声を抑えて笑い出したユイくんと一瞬目が合う。そこで自分が見つめていたことを思い出し、慌ててそっぽを向いた。
顔が熱い。やってしまった。