少し走ると、ユイくんの後ろ姿を見つける。

「ユイくん、ユイくん!!!」


「那月?どうしたの、そんなに慌てて。僕に会いに来たの?」
いつも通りだけどいつも通りじゃない笑顔で私に問う。
それがとても悲しい。

「ねぇ、私には言えないの?」
「何を?」
「なんで、助けを求めないの?」


私じゃ助けられない?



一瞬ユイくんの瞳が揺れる。
「じゃあ、助けを求めたら何をしてくれるの?那月に何か出来る?」
ユイくんは私の目を見て、優しい口調で話す。
「僕はね、那月を巻き込めない。不幸には出来ないよ」
「不幸にならないよ」
「いいや、なるんだ。…僕はもう十分なくらい助けて貰ってるよ」
だから、泣かないで。

そう言って私の頬を濡らす涙を指で掬いとる。
あぁ、私泣いてるのか。
なんでだろう。
話してもらえなくて悲しいから?
何も出来なくて悔しいから?

「何も、何も出来てないよ、私」
「そんなことないよ」


「どうしたら、話してもらえる?」
「…じゃあ、そのままの那月でいて。またちゃんと話すから」


保健室の時と同じ目で。
同じ言葉で。

「…待ってるからね。壊れないでね」

精神的に抱え込め壊れてしまう。
そんなこと、私よりユイくんが分かっていたとしても言わなくちゃいけない。


「分かってる」



じゃあ、と私を置いてユイくんは先へ行く。

私はそのまま動けなかった。何も出来なかった自分が悔しくて、何も力になれないことが申し訳なくて。



その時まだ、私はユイくんが不幸になると言っていた本当の意味を分かってはいなかった。