なのに…。

胡桃さんは真剣な瞳で私を貫くように言った。

「いないよ。」

ここで流されたら不倫の始まりだ。
気を確かに、意思を強く持つのよ、私!

「…嘘だ。」

「何でそう思うの?」

「だって、この前女の人と歩いていたし。」

私の言葉に、胡桃さんは一瞬考える仕草をする。
だけど思い当たる節がないのか、はたまたどれのことを言われているのかを考えているのか、疑問の目を向けてくる。

「どこで?」

「薬局の前です。…奥さんいるんですよね?」

「いないよ。」

核心を突いたと思ったのにあっさり否定されて、私は胸が張り裂けんばかりだ。

だって、そんなハズないじゃない。
こんなときに嘘つかないでよ。