「…いないです。」

どう答えるのが正解かわからなくて、私は一瞬の逡巡ののち正直に答えた。
ここは嘘でも“いる”と言った方がよかったのだろうか。
だけど胡桃さんはホッとした表情をする。

「そう、よかった。」

何がよかったんでしょう?
そんなことを聞いてどうするの?
何だか惨めだ…。

次の言葉が紡げない私をよそに、胡桃さんは真剣な面持ちで言った。

「俺と付き合ってください。」

本日二度目の、息が止まる事案だ。
一瞬理解ができなかった。
というか、思考が停止した。

待って待って待って!
嬉しいのに悲しいって、初めての感情だ。

素直に、嬉しい。
嬉しいのに。

でも胡桃さん、あずささんがいるじゃない?
奥さんなんでしょう?