クスクス笑っていると、目の前に差し出される傘。
胡桃さんがさしている傘だ。

意味がわからず私は首を傾げる。

「傘、ないみたいどけど。よかったらこれ使って。」

突然の申し出に、私は慌てて大きく手を振る。

「いえいえいえ!そんな!駅まで走ればすぐですし!大丈夫ですよ!」

幸い雨はシトシト程度だ。
駅まで走ったって、ずぶ濡れになることはない。
それに、私が傘を借りてしまったら、逆に胡桃さんが濡れてしまう。

そんな私の感情を顔から読み取ったのか、胡桃さんは言う。

「俺、家がすぐそこだから気にしないで使って。濡れて風邪をひいたらいけないから。」

風邪をひいているのは胡桃さんじゃないですかー。

とは言えず。
私は胡桃さんを見上げる。

「はい、どうぞ。」

と、強引に傘の柄を握らされ、一瞬の相合い傘ののち、胡桃さんは「じゃあ」と片手を上げて走って行ってしまった。

「えっ、ちょっ、まっ…て…。」

追いかけようと足を踏み出したけど、胡桃さんはすぐに十字路を曲がってしまい夜の闇に消えてしまった。