僕らの声は、聞こえたか。

料理を注文し終わって、それぞれがドリンクバーで飲み物を取りに行き、一息つくとここでも話題は文化祭の事。


「あ、ねえ!文化祭5人で回ろうよ!」

「おー!それいいね!!」


莉奈の提案にノリノリの葉月君。

それはそれで私も楽しそうだしいいんだけど・・・。



「中野と平松は一緒に回らなくていいのか?」



日向君の一言に葉月くんがハッとしたかのような表情をした。


そう、それが私も言いたかったのだ。付き合ってる二人からしたら、私達が一緒にいたらどう考えても邪魔者だろう。


だけれども莉奈は相変わらず笑顔で。



「あたし達は去年一緒に回ったし、やっぱり文化祭は人数多いほうが楽しいじゃん!翔也もいいよね?」



半ば誘導するような形で平松君を頷かせた莉奈。



「じゃあ決まりだな!」
盛り上がる莉奈と葉月君。チラリ、平松君を見ると、楽しそうに笑う莉奈に優しい眼差しを向けていた。



「・・・」

「俺、飲みもん取ってくるわ」

「はーい。いってら!」

「相川と大地の飲み物も何か持ってこようか?」



そう言って私と日向君の空のコップを指差した。先ほど入れたばかりのアイスティーは気が付けばもう飲み干していたようだ。



「あ、大丈夫。自分で行くよ」

「俺も」


立ち上がった私達を気にする事なんてない二人を横目に、私達はドリンクバーに向かった。
ドリンクバーについてすぐに、日向君は飲み物が決まっていたようでボタンを押していた。


私も先ほどと同じものを選ぶ。ピッ、とボタンを押せば流れ出てくる飲み物をただボーッと見ていると。



「平松は、マジでいいのかよ」



既に飲み物をコップに入れ終わった日向君は、壁にもたれ掛かりながら、揺れる水面を見つめていた。



「何が」



どれにしようか機械の前で迷ってる平松君。二人は瞳を合わそうとはしない。



「俺らと文化祭一緒で」

「莉奈がそうしたいって言ってるんだからしょうがないだろ」

「ふーん・・・」



日向君がコップを回すたびに、水面下で氷達が音を立てる。



「本当は二人で回りたいけど、アイツが楽しめるならそれでいいよ」
その言葉に平松君のほうを向くと、既にコップには飲み物が注がれていた。



「今の、莉奈には内緒な」



人差し指を口元に持ってくると、少しだけ口角をあげた。



「・・・」

「こんっのー!リア充め!!」

「ちょ、大・・・っ、危ねぇ!!」



後ろから勢いよく肩を組まれた平松君は危うく飲み物をこぼしそうになっていた。


そんな彼の肩に手を回した日向君の手に握られているコップには既に、先程まであったものがなくなっていた。



「調子のんなよー!」

「うるせぇ。耳元で大声出すな」

「見直したぜ平松!」

「はいはい。っていうかお前、もう飲んだのかよ。先戻ってるぜ」
そう言って席に戻っていく平松君の背中がどこか小さく見えたのは気のせいだろうか。


賑やかなはずのファミレス。けれど私と日向君のいるここだけは、別の空間のように感じた。



「平松君って、莉奈のこと本当に好きなんだね」

「・・・・・・あぁ」



やっとのことで絞り出した会話は、日向君のたった1.5文字の言葉によって終了。


先ほどまでのおちゃらけた彼のキャラはどこへやら。少しおちゃらけてくれると私としてはとても助かるんだけど・・・。


私も先に戻ってしまおうか。


そう思い彼の横を通り過ぎようとすると。



「平松さ、」



その声に、足をピタリと止める。



「中野のことを思って、自分が嫌でも我慢するなんてすげーよな」

「・・・そうだね」

「俺だったら、ぜってぇ無理だ」



文化祭を彼女と二人で回れないことが、かな?


しかし彼にとっては、その言葉は少し違う意味を帯びていた事に気づくことができず、私はただ頷いた。


「相川さん、先戻ってて!」



ハッと彼のほうを向けば、いつもの笑顔を振りまけていた。



「あ、うん」



その意味が分かるのは、まだまだ先のこと―――――。
そんな日の夜でも私のスマホは音を立てる。


今日もきた・・・!



半ば予測してたメール。

最近はメールからLINEに変わったため、メールを送ってくる人は限られてくる。

しかも最近メールをしてるのはたった一人。



「やっぱり・・・」



やっと見慣れた、明朝体で指示される日向君の名前。



1日数通のやり取りをして、だいたいどちらかが寝落ちをして次の日に返信、というのが定番になっていた。



でも彼からしてみたら毎日のメールって迷惑なのかな。部活があるから返信はいつも夜の9時以降だし。



なんて思いながらメールを開封する。
彼と私のメールは基本短文だ。

多くても改行して3行ぐらい。



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Date 05/23 21:03
From 日向大地
Sub Re:Re:Re:
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今なにしてる?


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昨日返信しにくい内容で返したから、ひょっとしたら返ってこないかもと思っていたけれど、まさか返してくれるなんて。


それに質問系だと凄く返しやすいんだなぁ。


購入して早1年が経つスマホの画面を慣れてしまった手つきで指を滑らせる。


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Date 05/23 21:07
From 相川美空
Sub Re:Re:Re:Re:
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音楽聴きながら
日向君とメール\(^o^)/

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送信、っと。


そしてすぐに返信がきた。


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Date 05/23 21:09
From 日向大地
Sub Re:Re:Re:Re:Re:
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何聴いてる?

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部屋に流れてる音楽は、以前のお昼の放送でも流されていたCloud 9(クラウドナイン)の曲。
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Date 05/23 21:14
From 相川美空
Sub Re:Re:Re:Re:Re: Re:
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Cloud 9だよ(*^^*)


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送信してすぐにまた部屋に鳴り響く着信音。
届いたメールを開くときに緊張するのは未だに直らない。



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Date 05/23 21:15
From 日向大地
Sub Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
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好き?

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いつもより質問が多いことに少しだけ嬉しさを感じる。


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Date 05/23 21:19
From 相川美空
Sub Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
Re:
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うん!すっごい好き(/∀\*)♥
日向君なに好き?

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送信して気がつく。


「あちゃー・・・」


いつもの癖で普通にハートマーク使ちゃった。


すぐに送信BOXに行き、自分が送ったメールを読み返す。


「うわぁ~・・・」


なんか、今更だけど恥ずかしい事しちゃったかなぁ・・・。


なんて悶えていると。




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Date 05/23 21:22
From 日向大地
Sub Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
Re: Re:
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Cloud 9!

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「本当、に・・・?」



日向君との共通点が、見つかりました。
な、何て返信しよう・・・!


ジーッとスマホとの睨めっこが続く。


そうだ、好きな曲とか聞いてみようかな。

あ、でも日向君は部活で疲れてるからメールをやっぱり今日で終わらせたほうがいいのかな。


なんて。


自問自答を繰り返していくうちに、時計の針はあっという間に進み、私の眠気もピークに達した。




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―――――・・・



「やばい・・・!遅刻する・・・!!」



これでもか、っていうぐらい全速力で自転車のペダルと漕ぐ。



昨日遅くまで起きてたせいで寝坊してしまった私は今、1分も無駄にできない状況。



しかもアスファルトを強く打つ雨のせいで視界は最悪。カッパを着ていても雨が顔に当たり悲惨な状況。



お願い・・・!間に合って・・・!!!





何とか駐輪場に入り、急いでカッパを脱ぐ。そこにはもう数人しかおらず、設置されている時計の針はあと3分で予鈴を鳴らそうとしていた。



まずい!ここまできて遅刻するわけにはいかない!



ボサボサの髪の毛を整える暇もなく、駐輪場を後にしようとすると。



「っ」



そこには、私同様遅刻しそうな日向君の姿があった。