「トマトジュースでもいいんだけど、こっちの方がトマト以外も入っていて奥深い味になるんだってさ」
そうなんだ、とわたしはその話を感心しながら聴く。
ぐつぐつとフライパンの中身が沸騰している。青司くんは丹念にそれらを木べらでかき混ぜていく。
「あとは水分がもう少し飛んだら終わりかな」
しばらくしてコンロの火が止められ、青司くんは手を軽く流しで洗うとわたしたちにもう一度向き直った。
「お待たせ。じゃあ、ちゃんと話すね」
「うん……」
「おう」
わたしと黄太郎も、居住まいを正して青司くんを見る。
周囲には美味しいカレーのにおいが充満していて、「早く食べたい!」とつい思いそうになってしまう。
でも、わたしはきちんと青司くんの話に耳を傾けた。
「結論から言うと、『俺は強くなりたかった』」
「は?」
「え?」
突然意外過ぎる言葉が飛び出したので、わたしも黄太郎も唖然としてしまった。
でも、青司くんはあいかわらずほわっとした笑顔を浮かべたまま、両の掌をこっちに向けてくる。
「待って。そう言うのにはちゃんと理由があるから」
「あ……そう、わかった」
「……続けろ」
わたしはびっくりしつつも受け入れ、黄太郎も憮然としたまま話の続きを聴くことになった。
「ええと……まず、十年前っていうか……もっと前、ここに越してきてからの話になるんだけど……俺はずっと、母さんを守っていけるような男になりたいって思ってたんだ」
それは青司くんの御両親が離婚して、この加輪辺(かわべ)町に引っ越してきてからの話になる。
今から二十年以上も前のことだ。
「母さんは少し体が弱くて、それでも俺をひとりで育てていかなくちゃならなくて……。それなのに、俺は何にもできなくて、絵を描くことしか取り柄が無かった。だから、早く一人前の画家になりたいって思ってた。必死に周りの、俺より上手い人から技術を盗んで。描いて描いて……早く母さんを守れるくらいの強い大人になりたいって思ってた」
ああ。そうか。
だから青司くんはずっと……そういう目で紫織さんを見てきたんだ。
青司くんが言った通り、それはたしかに恋愛感情じゃない。画家として追いつきたくて、それで目で追ってたんだ。
それを、わたしは……。