「玉ねぎで……涙が出たのはホントだよ。それに真白と黄太郎が付き合ってた、っていうのを聞いてショックを受けたのもホント。でも……たった一週間で別れたって、どうしてそうなったの?」


 単純に疑問なのか、青司くんはしれっとそんなことを訊いてきた。


「それも、言っていいのか? 真白」

「あー、うん。いいよ……」


 わたしは深いため息を吐くと、カウンターの上に顔を伏せた。


「オレたちが付き合ったのはな……」


 わたしたちが付き合ったのは、わたしが高校に上がってすぐのことだった。

 わたしはキラキラの一年生。

 黄太郎は一つ上の二年生だった。


 中・高と同じ学校で、腐れ縁のようにずっと一緒に過ごしてきたわたしたちは、先輩後輩とか関係なく、いつも仲の良い友人でいた。


 でも……あるとき黄太郎がわたしに告白してきたのだ。

 もう前に進むために青司を忘れろって。そのために俺と付き合わないかって。


 わたしは何事にもやる気が出ず、そのころも中途半端に生きつづけていた。

 部活もやらず、毎日家と学校の往復だけ。

 友達と遊ぶときぐらいしか気分が晴れることはなかった。


 黄太郎や親友の紅里(あかり)と、このまま何の変化もなく付き合っていくんだと思っていた。

 でも、黄太郎に告白されて。


 わたしは「お試し」でいいならと、誰にも言わずに付き合うことにした。

 でも……いろんなところに出かけてデートみたいなことを繰り返して、一週間が経ったころ、やっぱり違うと思いはじめた。


 そして――。


「それで、オレがついに我慢できなくなって、七日目の放課後だったか。いい雰囲気でキスしようとしたら……拒否られちまったんだよ。やっぱり青司を忘れられない、ってな……」

「そうだったんだ」


 黄太郎の話を聞いていた青司くんが、ものすごく嬉しそうにわたしを見ている。

 うう……穴があったら入りたい。


「そんなわけで、オレはきっぱりと失恋をしたわけだ。正直今だって真白が好きだ。でも……真白の気持ちを尊重して、別れたんだ」

「黄太郎……ごめん」

「いいって。真白、謝んなって言ったろ?」

「うん……」


 何度も何度も、それは言われたことだった。

 最初から無理だってわかってた、でもダメ元でも付き合ってほしいって言って良かった、って言ってくれてた。

 その言葉にどんなに救われたことか。


「だから……もう真白が不幸せな思いをするのは、許せねえんだ。オレが諦めた分、真白にはちゃんと幸せになってほしい。そうならないんなら、オレは……真白がたとえお前を許したとしても、許せねえ」

「黄太郎……」


 わたしは黄太郎の熱い思いを感じ取りながら、自分と青司くんとのことを考えていた。