「真白。悪い。でも、これくらいはやらせてくれ」

「……はあ。うん……」


 席にもう一度座りながら言う黄太郎に、わたしはため息をつきながら頷いた。

 青司くんには、相変わらず強い罪悪感を覚えたままである。

 でも、これだけは仕方がない。

 こうしたくなっても、今は仕方がないって思った。


 黄太郎は軽く咳払いをして、いよいよきちんとした「説明」をしはじめる。


「勘違いすんな、青司。俺は真白のキスや処女まで奪っちゃいねえ。だって俺ら、一週間しか付き合わなかったんだからな」

「は?」


 ネタバレされて、青司くんはすっとんきょうな声を上げる。

 見ると、驚きながらもどこかあきれ返っているような表情だった。


「そうだ。だから……安心しろ、このバカ!」

「……」


 黄太郎に言われて、青司くんが思わずわたしを見る。


「え、えっと~~~。うん、今言ったことは本当……」

「そっか」


 そう言うと、青司くんはみるみる笑顔を取り戻して、またザクザクと食材を切りはじめた。

 でもまだ涙が流れつづけている。

 わたしは見かねて、バッグから自分のハンカチを取り出した。


「あ、あの、青司くん! これ。これで涙、拭いて」

「はあ~、今度はうれし泣きか? けっ」


 黄太郎が毒づく横で、青司くんはわたしから遠慮なくハンカチを受け取る。


「ありがと、真白……。さっきから涙が止まらなくなっちゃってさ。あ、黄太郎、一応言っとくけど、これはうれし泣きとかじゃないからね。玉ねぎが目にしみてるだけだよ」

「はっ?」

「え?」


 黄太郎とわたしは思わず青司くんの手元を覗き込んだ。

 そこには、まな板の上に切り刻まれた玉ねぎがあった。
 
 二人とも唖然とする。一杯喰わされた……。


「ま、まじか」

「うそ。玉ねぎのせいで泣いてたの?」


 呆れていると、黄太郎がじっとわたしの顔を見てきた。 


「オイ……本当は、本当に泣いてたんじゃねえのか? たまたまそこに玉ねぎがあったから、体よく言い訳に使っただけで……。あ~、いや。こいつは昔からこういうやつだったな。そこだけは昔っから嫌いだったんだ! あ~、まったく! そもそも俺は他のことだって納得いってねえんだよ!」


 青司くんはわめきちらす黄太郎にいつものほわっとした笑みを向けると、荒みじんにしていた玉ねぎをまたフライパンの中に入れた。

 そして今度はしめじを包丁で切り刻みはじめる。

 どうやら食材は、それぞれできるだけ細かくする予定のようだ。