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行くときはとても長く感じられたのに、帰りはとても早く感じた。
お店の前までくると、庭側の道路に森屋園芸さんの軽トラックが停まっている。
わたしたちの乗った車は元の駐車場へ入っていった。
下車し、さっそく店の中に入る。
黄太郎が懐かしそうにフロアを見渡した。
「あれは、青司が描いたのか?」
「……そうだよ」
黄太郎が指したのは、壁に飾られた水彩画の数々だった。
外国の町並みや、動物、自然の風景など、どれも心が洗われるような素晴らしい絵である。
でもやはり黄太郎も、桃花先生の絵だけに釘付けになった。
「これは……先生か」
遠い昔を思い出すように、桃花先生の絵を見つめつづけている。
彼もまた、ここで開かれていた「お絵かき教室」の生徒だった。
そしてわたしとは違って、彼だけはちゃんと中・高ともに美術部で絵を描く活動をつづけていた。
「画家になったっていうのは、本当だったんだな」
そう言って青司くんを振り返る。
青司くんはスーパーで買った物をキッチン台の上に並べながら、調理器具等も戸棚から出しはじめていた。
「なのに、今さらこの町に戻って来るなんて……」
「……」
青司くんは相変わらず黙っている。
黄太郎はフンと鼻を鳴らすと、カウンター席に荒々しく座った。
わたしも黄太郎の隣の席に座る。
「どういうつもりか聞かせてもらおうか? あとなんで真白も側に置いてるのかをな。お前にはそんな資格、ねえだろうが」
そう言われた青司くんは、初めて黄太朗をにらんだ。
え? 今まで何を言われてもここまで怒ったりしなかったのに……急になんで……?
「資格……? それは俺が何も言わずに連絡を断ったことを言ってるのか? それは、悪いと思ってる。でも、なんでお前にそこまで言われなきゃいけない。店の手伝いについては……俺が頼んで、真白が引き受けてくれたからやってもらってることなんだ。真白が、決めたことだ。資格なんて、そんなものないだろ!」
「こ、黄太郎……。青司くん……!」
わたしは二人が怒鳴り合うのを、ハラハラと見守っていることしかできなかった。
また黄太郎が急に殴りかかろうとしたらどうしよう……。
そんな心配をするわたしに、黄太郎は軽く首を振ってみせる。
「大丈夫だ。もうさっきみたいなことはしない。でも……あくまでコイツ次第だな」
「黄太朗……」
青司くんは、そんなやりとりをするわたしたちをなんとなく白い目で見つめていた。
そうして、波乱の試食会が始まったのだった。