黄太郎は、ずっと怒りに満ちた目で青司くんをにらみ続けていた。そんな黄太郎に、わたしからもお願いする。


「お願い黄太郎。一緒に、来て」

「……」


 すると、ふっと一瞬だけ怒りが収まった気がした。

 わたしを見る目がどことなく優しくなる。

 黄太郎の気持ちを考えると、わたしは胸が痛くなった。


 だってわたしたちは、主にわたしのせいで別れることになったんだから……。


 でも今は、前に進みたい。

 わたしも黄太郎も青司くんも、ずっと過去にとらわれたままじゃダメだ。

 前に、進まなきゃ。


「……わかった。ちょっとだけだぞ」


 黄太郎は、そう言って頬を軽くかいた。


「黄太郎!」

「ありがとう、黄太郎」


 思わずわたしと青司くんはは喜びの声をあげる。

 黄太郎だけがしぶしぶ後部座席へと座った。

 わたしも助手席に座り、ちらっと振り返る。


「あっ、黄太郎。できたらその袋、落ちないように見張っててくれる?」

「あ? これか?」

「そう」


 車の揺れで落ちたりするかもしれないと、さっきひそかに心配していたのだ。

 黄太郎は買い物袋をじっと見つめると、片手をその上に置いて窓の外に視線を移した。


「……」


 何も言わないが、任せろ、ということなのだろう。

 わたしは嬉しくなった。と同時に、こうしたやりとりをとても懐かしく思った。

 別れてからはあまり話さなくなってしまったが、付き合うまでは男友達としてかなり仲よくしていたのだ。その頃をなんとなく思い出す。


 ふと気づくと、そんなわたしを青司くんがじっと見つめていた。


「な、何?」


 何か勘付かれたのかもしれない。

 ドキリとしながらもわたしは首をかしげてみせた。


「……」


 しかし、青司くんは何も言わないまま首を振る。

 エンジンがかかり、車が発進した。


 帰ったらおそらく……わたしと黄太郎の過去は知られてしまうのだろう。

 そしたら青司くんはいったいどんな顔をするだろうか。


 怖い。

 でも前に進むためにはきちんと話し合わなくちゃいけない。

 そう、ここにいる黄太郎のためにも……。


 わたしの親友、紅里(あかり)だって言っていた。

 あんたはちゃんとけじめを付けなきゃだめよ、って。

 けじめをつけなきゃいけない。

 そう、それは……それぞれの未来のために。