野菜売り場に到着すると、青司くんはさっそくニンジンやらたまねぎやらを物色しはじめた。


「ねえ、ランチって何を作るつもりなの?」

「んーとね、カレーかな。キーマカレー」

「キーマカレー?」

「うん。ひき肉を使ったカレーのことだよ。普通のカレーよりも短時間で作れるんだ」

「へえ……美味しそう」


 わたしは家でも外でもそういったおしゃれなカレーは食べたことがなかったので、少しワクワクした。

 青司くんはさらにしめじと、それから生のにんにくをカゴの中に入れる。


 続いてお肉コーナーに行き、ひき肉を一パック手に取った。


「これは合いびき肉、っと」


 最後にカレー粉とひよこ豆の缶づめ、そしてなぜか野菜ジュースを追加して会計を済ませると、また車に戻った。

 後部座席に買い物袋を置いていると……。


「おい、青司!」


 急に誰かが青司くんに声をかけてきた。


「黄太郎(こうたろう)……?」


 それはわたしの高校時代の元カレ、星野黄太郎だった。

 今はたしか、建築の設計事務所で働いていたはず。


 パーカーにジーパンというラフな姿だった。

 今日は休日なのだろうか。


「どうしてここに……」


 わたしが車の陰から出てそう言うと、黄太郎もわたしの方を見た。


「あ、真白。どうしてって……ここはオレん家から一番近いスーパーだ! なんだ、いちゃ悪いか!」

「い、いや……」


 黄太郎は、高校の時からあまり変わっていなかった。

 ヘアワックスでつんつんにした髪は今日も絶好調である。


 とにかく昔から怒りっぽいやつだった。

 ただの「短気」とも言うけれど。

 間違ったことが大嫌いで、トラブルが起きるとそれが解決するまでいつまでも不機嫌でいる、非常に面倒くさいやつでもあった。

 解決のために全力で動いてくれるのはいいところなのだが……いかんせん、この性格が欠点である。


 今彼が言ったことは正論だ。

 まったくもって正論だ。

 近所に住んでいるのだから、最寄りのこの店を利用するのはいたって普通のことである。


 でも……気まずかった。

 こんなところで会いたくなかった。


 だって青司くんにはまだ――。