「寒くない? 大丈夫?」


 車の送風機からは暖かい風が出ている。

 コートも着込んでいるので寒くはなかった。


「あ、うん。ありがとう。寒くないよ」


 そう答えると、青司くんは「良かった」と言いながらぎこちなく笑う。


 わたしと青司くんは今ドライブをしている。

 ただの買い出しだけど、それでもなんだか緊張した。


 ふたりっきりで「車」という密室空間にいるからだろうか。

 お店でもそう言われるとそういう状況だった。でも、あれはカウンターを挟んでいたから今のような近さではない。


 すぐ隣に青司くんがいる。

 それは呼吸が聞こえそうなほどの距離に。


 こんなにどきどきしているのは、わたしだけなんだろうか……。


「……」


 まっすぐ前を見て運転している青司くん。

 青司くんは、今のこの状況をどう思ってるんだろう。

 わたしのことを昔から可愛いと思ってたって言うけど……。

 そのことが信じられない。

 赤くなったりキスしてきたり。その態度を見れば、たぶん青司くんもわたしのことを好きなんだろうけど……。

 でもやっぱり信じられない。


「……」


 しばらくすると近所のスーパーに到着した。

 大きい駐車場。

 店舗に近い場所に停めると、わたしたちはそろって車を出る。


 温かい車内から、冷たい空気の満ちた外へと。


 火照った頬が風に気持ち良かった。

 視線を感じて振り向くと、なんと青司くんがじっとわたしを見ている。


「な、なに?」

「ううん、別に……」


 そう言って、あからさまに視線をそらす青司くん。

 あやしい。


「だ……だから、なに!」

「だから、なんでもなーい。言うと真白怒るかもしれないし」

「え。怒るって? そんな、逆に気になるじゃん!」

「ふふっ。じゃあやっぱり言わなーい」


 そう言って小走りにスーパーの方へ行ってしまう。


「ちょっ、待ってよ!」


 あわてて追いつくと、青司くんはすでにカートの上にカゴを載せていた。

 わたしが来たのと同時にそのまま店内に入る。


「ねえ、さっき何を言おうとしたの? 気になるんだけど」

「まあまあ。それは前も言ったことだし、いつも思ってることだから。あえて言うこともない、でしょ?」

「あ……。なんとなく予想ついた」


 あれだ。

 わたしが可愛いとかそういうやつだ。

 たしかに言われたら嬉しい反面、からかわれていると思って怒るかもしれない。


「怒らないなら言うけど?」

「いや、いい。ありがと、青司くん」

「どういたしまして」