後に残されたわたしたちは使い終わったみんなの食器を片づける。
「はあ。まさか午前中に来るなんてね。あと、紫織さんの旦那さんも来たし……本当びっくりしたよ」
食器を流しに運びながら、わたしはそう青司くんに語りかける。
青司くんは眠たそうな眼でわたしを見た。
「そうだね。でも良かったよ」
「良かった、ってケーキの完成が間に合ったこと? それとも、紫織さんたちの問題が解決したこと?」
「どっちも、かな。まあ、紫織さんたちの問題に関しては……正直かなり心配してたけど、でも旦那さんが来たからもう大丈夫だ」
「……うん」
青司くんは食器を手早く洗いはじめている。
その顔はごく自然ないつもの表情に見える。
でも、内心はいろいろ考えているのかもしれないと思った。
壁掛け時計はすでに十二時を回っている。
ケーキを食べたのでそれほどお腹は空いていなかったが、わたしたちはこれからどうするのだろうと疑問に思った。
お昼を食べるのか、食べないのか。
はたまたその前にまたお店の別の準備をするのか。
「ねえ、四時まで準備があるって言ってたけど、これから何をするの青司くん」
「ああ、そうだった。実はランチメニューのことも真白に相談したいと思っててさ。ちょっとこれから、その買い出しに付き合ってくれない?」
「いいけど」
「良かった。材料を買ってきたら、ここで作って、で、遅いお昼ご飯って感じでランチの試食をしてほしいんだ」
「……うん、なるほど。わかった!」
まさかランチの試食まですることになるとは思わなかった。
でも、青司くんの手料理……しかもご飯ものも食べられるとあっては付き合わずにはいられない。
食器を洗い終えると、青司くんはエプロンを外して、車のキーをどこかから取ってきた。
「じゃあ行こうか、真白」
「うん」
玄関を施錠すると、駐車場に停めていた水色のワンボックスカーに乗り込む。
慣れた手つきで運転席に座る青司くん。
それを横目で眺めながら、わたしも助手席に収まる。
「あ、ちゃんとシートベルトしてね」
青司くんの手がすっと伸びてきて、あっというまに自分のシートベルトが締められてしまった。
う、腕が……目の前に……!
わたしは思わず目をつぶってしまう。
「あ、ご、ごめん」
そんな声がしたので見ると、青司くんがそっぽを向きながら口元を拳で隠していた。
わたしはそのしぐさに胸が急にどきどきしてくる。
「あ、その……」
「ごめん。この距離でさすがにこれは……驚かせちゃったね」
「いや、いいけど」
「てか、まずい! うううぅ……」
額をハンドルに預けて、青司くんがなにやら呻いている。
「だ、大丈夫? 青司くん」
「うん……。あの、真白がこの距離にいるとツライ……」
「えっ?」
「また、キスしたくなる……」
そう言って、ちらりとこちらを流し目で見てくる青司くん。
いや、その視線の方がまずいって!
わたしだってもっとどきどきしてきて、逃げ出したくなる。
「ごめん。もう行くね」
「う、うん……」
どきどきしたまま、車は発進する。
道路に出ると右に曲がり、川沿いの道を走り抜けていく。
たぶん行き先は一番近いスーパーだろう。
青司くんの顔が見れない。
わたしはバッグの持ち手をぎゅっと握ったまま、なるべく遠くの景色を見た。
車でたった五分の道が、ものすごく遠く感じられた。
「はあ。まさか午前中に来るなんてね。あと、紫織さんの旦那さんも来たし……本当びっくりしたよ」
食器を流しに運びながら、わたしはそう青司くんに語りかける。
青司くんは眠たそうな眼でわたしを見た。
「そうだね。でも良かったよ」
「良かった、ってケーキの完成が間に合ったこと? それとも、紫織さんたちの問題が解決したこと?」
「どっちも、かな。まあ、紫織さんたちの問題に関しては……正直かなり心配してたけど、でも旦那さんが来たからもう大丈夫だ」
「……うん」
青司くんは食器を手早く洗いはじめている。
その顔はごく自然ないつもの表情に見える。
でも、内心はいろいろ考えているのかもしれないと思った。
壁掛け時計はすでに十二時を回っている。
ケーキを食べたのでそれほどお腹は空いていなかったが、わたしたちはこれからどうするのだろうと疑問に思った。
お昼を食べるのか、食べないのか。
はたまたその前にまたお店の別の準備をするのか。
「ねえ、四時まで準備があるって言ってたけど、これから何をするの青司くん」
「ああ、そうだった。実はランチメニューのことも真白に相談したいと思っててさ。ちょっとこれから、その買い出しに付き合ってくれない?」
「いいけど」
「良かった。材料を買ってきたら、ここで作って、で、遅いお昼ご飯って感じでランチの試食をしてほしいんだ」
「……うん、なるほど。わかった!」
まさかランチの試食まですることになるとは思わなかった。
でも、青司くんの手料理……しかもご飯ものも食べられるとあっては付き合わずにはいられない。
食器を洗い終えると、青司くんはエプロンを外して、車のキーをどこかから取ってきた。
「じゃあ行こうか、真白」
「うん」
玄関を施錠すると、駐車場に停めていた水色のワンボックスカーに乗り込む。
慣れた手つきで運転席に座る青司くん。
それを横目で眺めながら、わたしも助手席に収まる。
「あ、ちゃんとシートベルトしてね」
青司くんの手がすっと伸びてきて、あっというまに自分のシートベルトが締められてしまった。
う、腕が……目の前に……!
わたしは思わず目をつぶってしまう。
「あ、ご、ごめん」
そんな声がしたので見ると、青司くんがそっぽを向きながら口元を拳で隠していた。
わたしはそのしぐさに胸が急にどきどきしてくる。
「あ、その……」
「ごめん。この距離でさすがにこれは……驚かせちゃったね」
「いや、いいけど」
「てか、まずい! うううぅ……」
額をハンドルに預けて、青司くんがなにやら呻いている。
「だ、大丈夫? 青司くん」
「うん……。あの、真白がこの距離にいるとツライ……」
「えっ?」
「また、キスしたくなる……」
そう言って、ちらりとこちらを流し目で見てくる青司くん。
いや、その視線の方がまずいって!
わたしだってもっとどきどきしてきて、逃げ出したくなる。
「ごめん。もう行くね」
「う、うん……」
どきどきしたまま、車は発進する。
道路に出ると右に曲がり、川沿いの道を走り抜けていく。
たぶん行き先は一番近いスーパーだろう。
青司くんの顔が見れない。
わたしはバッグの持ち手をぎゅっと握ったまま、なるべく遠くの景色を見た。
車でたった五分の道が、ものすごく遠く感じられた。