「うーん。いったい何がダメ、なのかなぁ?」


 これには青司くんもお手上げである。

 ちゃんと説明したのに、それでもまだ何かが引っかかっているらしい。でも、それが何かはわからない。

 紫織さんも困った顔をしていた。


「菫は……『ぶどうジュース』は好きなのよ。私が家でよく飲んでて、それで菫も好きになったから。あと、ぶどうのゼリーも好きね。だからこのケーキも食べられると思ってたんだけど。うーん、やっぱネックは果物かしらねー」

「え?」


 その声は意外にも森屋さんからだった。

 彼にとっては、信じられないことだったのだろう。


「果物が……嫌い、なのか?」

「あ、そうなんです。皮とか果肉の触感が苦手みたいで。酸味も強いものが多いですしね。今までいろいろな果物を試してみたんですけど、全敗です。一口食べたら吐いちゃって。これはゼリーでコーティングされてるから少しは大丈夫かなって思ったんですけど……」

「……」


 森屋さんはじっと何かを考えこむと、すぐに顔をあげた。


「よし、ではそのぶどうを俺にくれ」

「えっ? も、森屋さん?」


 青司くんが驚いて森屋さんの顔を見る。


「どうせ食べられないのなら、俺が食べる。それさえ無ければ、その子も他の部分が食べられるかもしれないんだろう?」


 わたしも唖然としてしまった。

 まさか、森屋さんがそんなことを言うなんて。


 紫織さんたち夫婦も驚いているようだった。

 でも、ものは試しにとお願いすることになる。

 菫ちゃんのフォークで、ぶどうの部分だけを森屋さんのお皿に移し替えた。


「はい。菫……これなら食べられる?」

「……!」


 するとパッと菫ちゃんの顔が晴れやかになる。

 すぐさまフォークを取り、おそるおそるだがケーキをつつきはじめてくれるようになった。


「ああっ、良かった! やっぱりこれがネックだったのね。ありがとうございます、森屋さん。菫のために……ていうか、そういえばこれ私が代わりに食べても良かったのよね」


 突然ハッとして、残念そうにする紫織さん。

 しかし、森屋さんはすでにそのぶどうを食べ終えてしまった後だった。