「ほんと、どれだけ心配したと思ってるんだ! 急に書置きだけ残していなくなるなんて。たしかに、最近親たちがいろいろ言ってきてうるさかった。けど、菫の件は俺たちだけでどうにかしていこうってそう話してたじゃないか」
「そ、そうだけど……あなた最近、全然菫の支援のこと考えてくれてなかったじゃない。そう思ってるんなら、もっと協力してよ!」
「……」
旦那さんは周囲をちらと見回すと、青司くんとわたしに軽く頭を下げてきた。
「すみません。その……お騒がせして」
「あ、いえ。いいんですよ。紫織さんとはお互い昔馴染みなんで」
「そうですか。でも、こんなことむやみに人に聞かせるお話じゃないですよね。お恥ずかしい」
「……」
旦那さんの弁に、紫織さんはムッとして言った。
「お恥ずかしい? だったらこんなこと私にさせないで。周囲に理解されないからって、最初から諦めてきすぎだったわ、私たち……。さっき、ようやくわかったの。一回ダメでも、何度でもあきらめずに挑戦するべきだったって。ねえ、もう一度、それぞれの親にちゃんとした説明をしない?」
旦那さんは眉根を寄せながら、それはとても難しいこと、だから諦めた方が早いということを訴えた。
それでも、紫織さんはなかなか引き下がらない。
言い合いが十分ほど経ったその頃。
ようやく娘の菫ちゃんが戻ってきた。
仕事がひと段落したらしい森屋さんとともに、サンルームの方から出てくる。
「あ、お父さ……?」
父親の存在に気が付いたのか、そうつぶやくとすぐに菫ちゃんは森屋さんの後ろに隠れてしまった。
紫織さんの旦那さんは、ガーンとわかりやすくショックを受けている。
「あ、ああぁ……菫……」
「菫~、どうする? もうお父さんが私たちを連れ戻しに来たみたいだけど、もう帰る?」
「……う、ううう~~~っ!」
菫ちゃんは森屋さんの後ろで、ぶんぶんと首を真横に振っていた。
顔がどんどん赤くなっていって、今にも泣きだしそうな表情になる。
場は、しばらくそのままのこう着状態となった。
「えーと……みなさん、一旦休憩しませんか?」
そこに、低く穏やかな青司くんの声が通る。
「あ、ええと……」
「……」
戸惑う旦那さんに、しぶしぶうなづく紫織さん。
「じゃ、じゃあ、そちらのテーブル席にどうぞ!」
わたしは席を立って、うろたえている一同をフロアのテーブル席へとご案内した。
こういうのは普段やってることだからだろうか。
ウェイトレスとして、ついつい体が動いてしまう。
カウンターに一番近いテーブルには、森屋さんと菫ちゃん、紫織さん、そして紫織さんの旦那さんの四名が、ちょうど顔を突き合わせるかたちで着席した。
青司くんを見ると、ちょうど彼もわたしの方を見ていて「よくやった」とばかりににっこりしている。
わたしは無言になりながら、またカウンター席に戻った。
青司くんはすぐに冷蔵庫を開ける。
先ほどのムースケーキを取り出して、お湯で温めた包丁で綺麗に八等分に切り分けていく。
今日はお客さんがたくさんだった。
青司くんがこの家に帰ってきてから過去最多の人数だ。
わたしも青司くんも、たぶんこのとき同じくらいワクワクしていた。
「はい。まずはこれが真白の分」
わたしの目の前に、とん、と紫色のムースケーキがひとつ置かれる。
続いて同じケーキが四つ載ったお盆と、セットの飲み物が四つ乗ったお盆がカウンターに置かれた。
「真白。そっち、ケーキの方、手伝ってくれる?」
「うん」
わたしは嬉しくなった。
今度は青司くんの方から、ちゃんと仕事を振ってくれたからだ。
どうせやるなら自発的にじゃなく、やっぱり青司くんに必要とされてから動きたい。
わたしはケーキの乗ったお盆を持ち、青司くんと共に意気揚々とみんなの待つテーブル席へと歩いていった。
「そ、そうだけど……あなた最近、全然菫の支援のこと考えてくれてなかったじゃない。そう思ってるんなら、もっと協力してよ!」
「……」
旦那さんは周囲をちらと見回すと、青司くんとわたしに軽く頭を下げてきた。
「すみません。その……お騒がせして」
「あ、いえ。いいんですよ。紫織さんとはお互い昔馴染みなんで」
「そうですか。でも、こんなことむやみに人に聞かせるお話じゃないですよね。お恥ずかしい」
「……」
旦那さんの弁に、紫織さんはムッとして言った。
「お恥ずかしい? だったらこんなこと私にさせないで。周囲に理解されないからって、最初から諦めてきすぎだったわ、私たち……。さっき、ようやくわかったの。一回ダメでも、何度でもあきらめずに挑戦するべきだったって。ねえ、もう一度、それぞれの親にちゃんとした説明をしない?」
旦那さんは眉根を寄せながら、それはとても難しいこと、だから諦めた方が早いということを訴えた。
それでも、紫織さんはなかなか引き下がらない。
言い合いが十分ほど経ったその頃。
ようやく娘の菫ちゃんが戻ってきた。
仕事がひと段落したらしい森屋さんとともに、サンルームの方から出てくる。
「あ、お父さ……?」
父親の存在に気が付いたのか、そうつぶやくとすぐに菫ちゃんは森屋さんの後ろに隠れてしまった。
紫織さんの旦那さんは、ガーンとわかりやすくショックを受けている。
「あ、ああぁ……菫……」
「菫~、どうする? もうお父さんが私たちを連れ戻しに来たみたいだけど、もう帰る?」
「……う、ううう~~~っ!」
菫ちゃんは森屋さんの後ろで、ぶんぶんと首を真横に振っていた。
顔がどんどん赤くなっていって、今にも泣きだしそうな表情になる。
場は、しばらくそのままのこう着状態となった。
「えーと……みなさん、一旦休憩しませんか?」
そこに、低く穏やかな青司くんの声が通る。
「あ、ええと……」
「……」
戸惑う旦那さんに、しぶしぶうなづく紫織さん。
「じゃ、じゃあ、そちらのテーブル席にどうぞ!」
わたしは席を立って、うろたえている一同をフロアのテーブル席へとご案内した。
こういうのは普段やってることだからだろうか。
ウェイトレスとして、ついつい体が動いてしまう。
カウンターに一番近いテーブルには、森屋さんと菫ちゃん、紫織さん、そして紫織さんの旦那さんの四名が、ちょうど顔を突き合わせるかたちで着席した。
青司くんを見ると、ちょうど彼もわたしの方を見ていて「よくやった」とばかりににっこりしている。
わたしは無言になりながら、またカウンター席に戻った。
青司くんはすぐに冷蔵庫を開ける。
先ほどのムースケーキを取り出して、お湯で温めた包丁で綺麗に八等分に切り分けていく。
今日はお客さんがたくさんだった。
青司くんがこの家に帰ってきてから過去最多の人数だ。
わたしも青司くんも、たぶんこのとき同じくらいワクワクしていた。
「はい。まずはこれが真白の分」
わたしの目の前に、とん、と紫色のムースケーキがひとつ置かれる。
続いて同じケーキが四つ載ったお盆と、セットの飲み物が四つ乗ったお盆がカウンターに置かれた。
「真白。そっち、ケーキの方、手伝ってくれる?」
「うん」
わたしは嬉しくなった。
今度は青司くんの方から、ちゃんと仕事を振ってくれたからだ。
どうせやるなら自発的にじゃなく、やっぱり青司くんに必要とされてから動きたい。
わたしはケーキの乗ったお盆を持ち、青司くんと共に意気揚々とみんなの待つテーブル席へと歩いていった。