ふと気が付くと、青司くんがわたしをじっと見つめていた。

 さっきの「怖い」という言葉で気付かれたかもしれない。

 わたしが、自分の状況を紫織さんたちのことに重ね合わせてる、って――。


 青司くんは自分の分の紅茶を淹れると、こちらを向いて言った。


「真白、じゃあその恐怖をなくすには……いったいどうしたらいいと思う?」

「……」


 わたしは少し考えたあと、きちんと青司くんの目を見て言った。


「それには……怖いと思う対象をもっとよく知る、しかないと思う。知ればたいていのものは怖くなくなるはず。だから紫織さんももう一度、ご家族にイチから障害のことを説明……したらいいのかも」


 紫織さんはわたしの言葉に大きくうなづいた。


「そうね。私、もう一度ちゃんと向き合ってみるわ。一度は逃げ出してしまったけれど……もう逃げない。菫のためにきちんと理解してもらえるよう、頑張るわ」


 にっこりと笑って、わたしたちにそう誓う。

 紫織さんは本当に真面目で、努力家だ。わたしはそんな彼女を素直に尊敬した。


 きっと、青司くんが憧れたのもこういうところだったんだと思う。

 ダメなことはダメってすっぱり諦める決断の速さだったり、目標に向かってまっすぐ突き進む意志の強さだったり。

 こんな素敵な人を大事にしないなんて、本当に旦那さんはもったいないことをしている。

 菫ちゃんのためにも、早くこの夫婦には仲直りしてほしいと思った。


 そうこうしていると、突如店のドアが開く。

 現れたのは背の高い眼鏡の男性だった。


「紫織! 菫!」


 突然、その名を男性が叫んだので、紫織さんは弾かれたように席を立った。


「あ、あなた!? どうしてここに……。てか私たちのこと心配してなかったんじゃ……」

「バカッ、そんなわけないだろう! 今まであちこち探し回って、ようやく……紫織のおばあさんにここにいるって訊いて、それで飛んできたんだ」

「だって連絡……。し、仕事は……?」

「そんなのお前たちの方が大事だ! 菫は?」

「そ、外で遊んでるけど……」

「はあ~~~」


 旦那さんらしき人は長いため息を吐くと床にしゃがみこんだ。