否定するだけなんてひどすぎる。

 家族だったら、理解して支え合わなきゃいけないのに。

 その反対のことをするなんて。


「あ……」


 そう思った所で、気が付いてしまった。


 それはわたしも同じだった、って……。

 わたしは、今の青司くんを否定してしまっている。昔と変わってしまった青司くんを、まだ受け入れられないでいる。

 同じだ……。


 そう思ったら、紫織さんにこれ以上何を言っていいかわからなくなった。


「どうしたの、真白ちゃん」

「い、いえ……」


 わたしは……ちゃんとできているのだろうか?
 青司くんに対して。
 良き隣人として。


 幼馴染だったら、好きな人だったら、否定なんかしてないでちゃんと支えようとしなきゃいけないんじゃないの?

 いつまでも、昔のことを引きずってないで。

 今の青司くんを早く、受け入れなきゃいけないんじゃないの?


 でも、こういうのって人によるはず。

 すぐに受け入れられる人もいれば、ものすごく時間がかかる人もいる。

 頭ではどんなにわかってても、無理して相手に合わせようとすれば自分がひどいダメージを負ってしまうことだってある。


 今のわたしが、そうであるように。

 きっと旦那さんも、その他のご家族も……その受け入れる時期がまだ来てないだけなんじゃないだろうか。


「あの。たぶん、なんですけど……」

「ん?」

「たぶん皆さんも……怖い、んだと思います」

「え、怖い?」

「はい。旦那さんも、それぞれの御両親も……その……菫ちゃんの発達障害がどんなものかっていうのがまだよくわかってないんじゃないですか? だから、怖くなっちゃったんじゃないでしょうか。未知のものを人は恐れます。だからきっとご家族は……その恐怖からただ逃げたかっただけなんだと思います」

「あ……」


 紫織さんはハッとしたようにわたしを見る。

 次いで、窓の外の菫ちゃんを振り返った。


「そっか。それは……そうかもしれないわね。私は初めから否定されるばっかりで……きちんと周りに説明する機会が得られなかった。だから、ずっとわかってもらえないままで、不安な状態にさせつづけてしまったんだわ。主人も主人で、親たちよりは理解できてると思ってたんだけど、本心は違ったのかもね。あの子の将来はいったいどうなってしまうんだろうとか……そういう心配をしていたのかも」

「紫織さん……」


 紫織さんは先ほどからティースプーンをカップの中に入れて、くるくるとかきまぜ続けている。

 きっとわたしの言った内容を吟味しているのだろう。