「ねえ……おばあちゃんにも聞いたけど、大丈夫なの?」

「大丈夫、とは?」

「喫茶店の経営よ。経験はあるの?」

「いえ……」


 はあ、と呆れたように天井を仰ぐ紫織さん。


「あのね、飲食ってのはそんなに簡単なもんじゃないわよ。クライアントを見ているとつくづくそう思うわ。どんなに広告を打っても、基本ができていないとすぐに赤字になるの。競合店が少なくて、かつ人通りの多い場所とかならまだしも。こんな田舎でちゃんとやっていけるの?」

「……それは」


 青司くんは言いよどみながら、冷蔵庫からブドウジュースのペットボトルを取り出した。それを小鍋に入れ火にかける。

 表情が少し暗い。

 紫織さんから現実的な指摘をされて、真剣に答えようとしているのだろう。


「真白ちゃんにもさっき聞いわ。あなたは、かつて桃花先生がやっていたみたいなことをしたいそうね。でも、あれはあくまでも先生の『趣味』で、あなたがやろうとしていることは『仕事』なの。そこには大きな違いがあるわ。そしてそれに、真白ちゃんを巻き込もうとしている……。その意味をわかってる?」

「紫織さん」


 度重なる鋭い指摘に、わたしは思わず口を挟んでしまった。

 わたしは自分がどうなろうが構わない。

 まず、実家暮らしだし。

 たとえお客さんが来なくて儲からなくても、きっとどうにかなると楽観していた。


 青司くんだって、この家は賃貸じゃないんだし。画家の仕事も一応……スランプだけど兼業である。だから、そういう心配事はそんなにないと思っていた。

 紫織さんはハッとして目を伏せる。


「あ、ごめんなさい……。つい、こういう細かいことが気になってしまうの。わたしの悪い癖だわ。それで夫とも喧嘩したのに……。ほんと、余計なことだったわよね、ごめんなさい。せっかく新しいことにチャレンジしようとしているのに、水を差すようなことを言って」

「いえ。ご心配なさるのも、当然です」


 青司くんは重々しい口調で語りながら、沸騰しはじめた鍋の火を止めた。

 そして、そこに粉ゼラチンを振り入れる。