「女の子って早くからおしゃべりになるっていうけど、あの子はあの歳にもなってまだあんまりしゃべれなくてね……。でも、私に似て絵を描くのがものすごく好きなの。あとで、少しだけここで絵を描かせてあげたいわ……」
そう言いながら、紫織さんも部屋の中をじっくりと見回す。
主に目を止めているのは、壁に飾られたたくさんの水彩画のようだった。
「これ昨日も見たけど、ものすごく上手な絵よね。センスがいいわ。喫茶店をオープンさせるにあたって青司くんが仕入れたものかしら」
「あ、それらは全部、青司くんが描いた絵……です」
「え? そうなの!?」
紫織さんは驚いたように再度見なおす。
そして、ついに入り口付近の壁にある桃花先生の肖像画を見つけた。
「あ、これ。桃花先生……」
わたしは肖像画の前で立ちつくしている紫織さんの側に行く。
そして、お絵かき教室のみんなに伝えたことと同じことを説明した。
「―そう。そうだったの。それで青司くんは誰とも連絡がつかなくなってしまったのね……」
「はい。今はスランプで、それを解決するためにここに戻って来たらしいですけど、わたしは……青司くんはみんなとのつながりを、もう一度取り戻しにきたんじゃないかって思ってるんです」
「まあ、あの頃みんな怒ってたもんねえ。この薄情者~って。そのしこりは、できたらわたしたちも取っておきたいわ。そういう事情を知ったら余計にね」
そう言って、紫織さんは寂しげに笑う。
「青司くんは、それでも心配してると思います。喫茶店を開いても……みんな来てくれないかもしれない、許してくれないかもしれない、って……。でも青司くんにとっては、ここは自分のルーツだから。スランプの今、もう一度ちゃんとしておこうって思ったのかもしれないです」
「ふーん。ずいぶんと青司くんのこと、『理解』してるのね」
「へ?」
にやにやとしながら、紫織さんがわたしの顔を覗きこんでいる。
「ま、あなたは昔からそうだったけど」
「え……ど、どういう意味ですか!?」
「ええ~。わかんないの~? バレバレだったわよ、わりと昔から」
「え、は?」
紫織さんはまだにやにやしている。
ど、どういうことだろう。
それってもしかして……わたしが青司くんに対して抱いている好意のことを言っているんだろうか。
だとしたら相当恥ずかしい。
そうこうしているうちに青司くんが納戸から戻ってきた。
「あ、紫織さん。それから……菫ちゃんも。いらっしゃい」
「ああ、青司くん。お邪魔してるわ。菫、この人がわたしの教わっていた先生の息子さん、青司くんよ」
「……」
菫ちゃんはぺこりとお辞儀をすると、とたとたとサンルームの方へ行ってしまった。
「ごめんなさいね。すごくシャイなのよ」
「いいんです。それより……すいません。何時にいらっしゃるかわからなかったものですから。まだおもてなしの準備ができてなくて……」
「ああ、それこそいいのよ。まだお店としてはやってないんだし。お茶だけいただける? 今真白ちゃんからあらかた事情は聴いたけど、あなたからも話を聞きたいわ」
「え、あ……はい」
青司くんがわたしを見る。
別に変なことは言ってないはずだ。
でも、紫織さんに言いたいことがあるならちゃんと自分の口で言ってもらいたい。そう思う。
わたしたちはそうしてカウンターに向かった。
そう言いながら、紫織さんも部屋の中をじっくりと見回す。
主に目を止めているのは、壁に飾られたたくさんの水彩画のようだった。
「これ昨日も見たけど、ものすごく上手な絵よね。センスがいいわ。喫茶店をオープンさせるにあたって青司くんが仕入れたものかしら」
「あ、それらは全部、青司くんが描いた絵……です」
「え? そうなの!?」
紫織さんは驚いたように再度見なおす。
そして、ついに入り口付近の壁にある桃花先生の肖像画を見つけた。
「あ、これ。桃花先生……」
わたしは肖像画の前で立ちつくしている紫織さんの側に行く。
そして、お絵かき教室のみんなに伝えたことと同じことを説明した。
「―そう。そうだったの。それで青司くんは誰とも連絡がつかなくなってしまったのね……」
「はい。今はスランプで、それを解決するためにここに戻って来たらしいですけど、わたしは……青司くんはみんなとのつながりを、もう一度取り戻しにきたんじゃないかって思ってるんです」
「まあ、あの頃みんな怒ってたもんねえ。この薄情者~って。そのしこりは、できたらわたしたちも取っておきたいわ。そういう事情を知ったら余計にね」
そう言って、紫織さんは寂しげに笑う。
「青司くんは、それでも心配してると思います。喫茶店を開いても……みんな来てくれないかもしれない、許してくれないかもしれない、って……。でも青司くんにとっては、ここは自分のルーツだから。スランプの今、もう一度ちゃんとしておこうって思ったのかもしれないです」
「ふーん。ずいぶんと青司くんのこと、『理解』してるのね」
「へ?」
にやにやとしながら、紫織さんがわたしの顔を覗きこんでいる。
「ま、あなたは昔からそうだったけど」
「え……ど、どういう意味ですか!?」
「ええ~。わかんないの~? バレバレだったわよ、わりと昔から」
「え、は?」
紫織さんはまだにやにやしている。
ど、どういうことだろう。
それってもしかして……わたしが青司くんに対して抱いている好意のことを言っているんだろうか。
だとしたら相当恥ずかしい。
そうこうしているうちに青司くんが納戸から戻ってきた。
「あ、紫織さん。それから……菫ちゃんも。いらっしゃい」
「ああ、青司くん。お邪魔してるわ。菫、この人がわたしの教わっていた先生の息子さん、青司くんよ」
「……」
菫ちゃんはぺこりとお辞儀をすると、とたとたとサンルームの方へ行ってしまった。
「ごめんなさいね。すごくシャイなのよ」
「いいんです。それより……すいません。何時にいらっしゃるかわからなかったものですから。まだおもてなしの準備ができてなくて……」
「ああ、それこそいいのよ。まだお店としてはやってないんだし。お茶だけいただける? 今真白ちゃんからあらかた事情は聴いたけど、あなたからも話を聞きたいわ」
「え、あ……はい」
青司くんがわたしを見る。
別に変なことは言ってないはずだ。
でも、紫織さんに言いたいことがあるならちゃんと自分の口で言ってもらいたい。そう思う。
わたしたちはそうしてカウンターに向かった。