「昨日の夜、考えたんだ。どうして昨日真白はああ言ったんだろうって。たぶん、真白は……昔の俺を見てる。今の俺の向こうに昔の俺を見てる……気がする。でもそれじゃあ、きっとこれからもギクシャクしたままだ。好きだとかそう言う以前に……一緒に働くならそれは、何とかしてほしいって思った」

「あ……」


 真剣な瞳で青司くんがこちらを見ている。

 わたしは恥ずかしくなった。

 未熟にもほどがある。過去の幻影にずっと囚われていたのを、青司くんに見抜かれた。


「俺が引っ越したままいなくなって、傷付けた身で悪いけど……真白、一度そういう風に見てもらえないか? 今の俺を、ちゃんと見てほしいから」

「青司くん……」


 違う人間。
 昔の青司くんと今の青司くんは違う人間。

 同じ人じゃない。

 まったく違う人として、接する。


 できるかわからないけど……でも、前に進むためにはやってみようと思った。


「うん、わかった。違う人だと……思うようにしてみるよ」

「ありがとう。じゃあ、改めて言うよ。真白」

「え? は、はい」

「これからまた改めてよろしくお願いします。同じ店で働く者として、俺のことをまた一から知っていってください」

「えっと……はい……」


 胸に片手を当てて、青司くんが仰々しくそんなことを言う。

 実際まだ戸惑っている。でも……。


 違う人間……。

 そう思うだけでなぜか心が軽くなった。

 昔の青司くんを想うのとは、また別の気持ちでドキドキしてくる。 


 こんなにわたしのことを考えてくれて。

 わたしとの関係を、なんとかしようとしてくれている。

 それは昔から変わらない優しい青司くんだった。でも、なんというかさらに大人の包容力、みたいなものも感じる。


 そう思ったら、またさらに胸が高鳴ってきてしまった。


「……」


 青司くんはまたボウルの中のものを混ぜはじめている。

 わたしも少し心に余裕が出来て、口元に笑みを浮かべられるまでになった。