「そ、それから……別に、答えは今すぐじゃなくてもいいから。俺に慣れたら、その……もう一度考えてみてほしい」


 青司くんはそれ以上何も言わず、顔を赤くさせたままでいた。

 こういう青司くんは新鮮だ、と思う。

 でもわたしも、あまり直視できなくてうつむく。


「えっと……うん。あの、わたし、明日バイトが休みだから。その……また朝から来るね……」

「うん。わかった」


 なんだかものすごくぎこちない会話だったけど、これでいい、と思った。

 わたしは青司くんの優しさに救われた。

 たしかに青司くんは急にあんなことしてきたけど、わたしの話を聞いて、わたしの気持ちに合わせてくれたのだ。


 俺に慣れたら、って……。

 なんだか変な言い回しだったけど。


 とりあえず、わたしは一旦帰ることにした。

 これ以上一緒にいたら、本当におかしくなりそうだ。どういう顔をして青司くんを見ていたらいいかわからない。

 でもそれは、たぶん明日来た時も同じことを思うのだろう。


「それじゃあ、また明日」

「うん……」


 わたしは玄関を開けて外に出る。

 後ろからすぐ青司くんがついてきて、その戸を手で押さえた。

 そのしぐさが男っぽくて、ついドキッとする。


「ん? なに、真白」

「あ、いや……なんでもない」


 首をかしげられるけど、わたしは素知らぬふりをして、店の前に停めていた自転車に乗った。

 あたりはもうすっかり日が暮れている。

 別れの挨拶はもう済ませていたので、目だけで青司くんに合図する。

 視線が合ったとき、強くまた引き寄せられたような気がした。


 それは、ちょうど青司くんも同じように思ったようで。

 すぐにお互い視線をそらす。
 どきどきがまた止まらなくなる。

 わたしは急いで家に帰ることにした。


 わたしは……その時気が付いていなかった。
 そんなわたしたちの様子を、見ていた人がいたことに。