「だって、そうでしょ? 昔から……青司くんは紫織さんを見てきたじゃない。それは、わたしがずっと側で青司くんを見てたから知ってる。なのに、なんで? なんで今わたしにこんな……」

「それは、違う」

「え?」


 青司くんはわたしの両肩を掴んで、まっすぐな瞳で言った。


「紫織さんは、たしかに俺の憧れの存在だった。俺より二つしか違わないのに、すごく才能があって。絵描きとしてもすごく尊敬していた。でも……それだけだ。俺はずっと、ずっと昔から真白のことが……。可愛いって……」

「え……」


 可愛い?

 可愛いって言った? いま。


「嘘」

「嘘じゃないよ。ごめん、真白の気持ちも考えずに。でも、再会してからどんどんどんどん真白が可愛く見えてきちゃって……さっきとか。今も。俺、耐えられなくて……」


 そう言って、また抱きしめられる。

 わたしも抵抗すればいいのに、なんだかできなくてそのままだった。

 でも、心は混乱しきっていて、態度とは裏腹にネガティブな言葉が出てくる。


「嘘だ。嘘……。そんな、青司くんがわたしを、なんて……」


 わたしは信じられなくてぶんぶんと首を振った。

 この人は、本当に青司くんなんだろうか。

 わたしを可愛いって言うのはいつも冗談だと思ってた。でも、本当にそう思ってたってこと? でも……でもそんなのは、どうしても信じられない。


 キスまでされたのに。

 抱きしめられたのに。

 それは、とっても嬉しいことだったはずなのに。


 なぜだか違うと、心が拒否をはじめている。


「嘘じゃない。俺……今まで黙ってたのは、お店の手伝いを断られたくなかったからだ。でも、本当に俺は真白の事……」

「そ、そんな!」


 困った。

 困ってしまった。

 こういうとき、どう返事したらいいんだろう。


 いろいろな考えが頭をよぎる。


 わたしは大好きな人からのこの告白を無条件で受け入れるべき、なのか?
 そもそもこれは、青司くんにとってプラスになることなのか?

 いや、むしろ駄目なことじゃないか。

 そうだ。「わたしなんか」が青司くんをひとり占めしちゃダメだ。彼は才能のある人で、もっといろいろなことができる人だから――。


 桃花先生の気持ちが、少しわかった気がする。

 そう、好きな人を支えられるだけの自信が自分になかったのだ。


 仕事仲間としてならいい。幼馴染としてなら、友達なら、ご近所さんなら。何の心配もなく全力でお手伝いができる。

 でも……恋人としてではまるっきり自信がない。

 それどころか、むしろ自分までダメになりそうな予感さえある。


「嬉しい。でも……。怖い」

「怖い……?」

「うん。怖いよ」


 見上げると、青司くんはその言葉に眉根を寄せていた。

 わたしはきちんと説明した。