「……ごめん、誰か来たみたいだ。ちょっと見てくる」

「う、うん……」


 そう言って足早に青司くんは納戸を出て行く。


「た、助かった……」


 ホッとして、わたしはその場にしゃがみこむ。ここの床はホコリが積もっているのでさすがにへたりこんだりはしない。

 それにしても……。青司くんがわたしにキスしようとした? う、嘘でしょ……。

 わたしは思わず自分の唇に手を当てた。


「だって、青司くんは……紫織さんが好きだったんじゃ?」


 それとも、今はもう何とも思ってないんだろうか。

 うーん。わたしが勝手にそう思い込んでただけ? 絶対、当時特別な何かがあったと思うけど……ただの憧れ、とかだったのかな?


 わからない。


 でも、それより。

 なにより。

 わたしに青司くんがキスしようとした、そのことが問題だった。


「どうして……」


 どうしてさっき、わたしの過去なんかを訊いてきたんだろう。
 誰かとそういう関係になったことがあるか、なんて。

 付き合ったことは……あるよ。

 一週間だけだったけど。

 でも、青司くんはどうなの? イギリスで、誰かと付き合った? その人は特別な人だった?


 わたしにキスしようとしたりして。

 もしそういう人がいたなら、それは……「裏切り」だよ。


 ああ……わたし、何を考えてるんだろう。

 全部妄想だ。本人に、事実を確認したわけでもないのに。

 でも……青司くんが何を訊きたいいのか、何をしたいのかがよくわからなくて、こんな風に混乱してしまってる。


 しばらくしても、青司くんは戻ってこなかった。

 心配になったのでそっとお店の方へ戻ってみる。

 すると、そこには紫織さんがいた。


「え……?」


 噂をすればなんとやら、だ。

 でもなんてタイミング。

 というか……なんで? なんで紫織さんが今ここにいるの?

 わたしは物陰からそっと様子を伺った。