「ひ、久しぶり……」

「うん。久しぶり……」


 そう言い合うと、お互い無言になってしまった。

 周囲の木立が風にさわさわと揺れる。



 彼はこの十年ですっかり大人になっていた。

 わたしより三歳年上だから……今は二十八、か。

 あまりにも嬉しくて、わたしは今にも卒倒しそうになっていた。

 でもそうならないようになんとか次の言葉をつむぎだす。


「あ、あの。さっきお母さんから聞いて、さ。びっくりしたよ……」

「ああ……いろいろあって、またここに住むことになったんだ」

「そう……」

「とりあえず、中で話す?」

「うん」


 青司くんは助手席から買い物袋を二つ取り出すと、表の方に回った。わたしはその後を緊張しながらついていく。


 大きな玄関扉。

 その横には、「お絵かき教室」と書かれた看板がまだ掲げられている。

 十年の間にすっかり色あせてしまったが、下の方にはまだ青司くんのお母さんの名前がはっきりと刻まれていた。


「これ……」

「ああ、俺も今日、これ見て懐かしいって思った」


 じっと、青司くんもそれを見つめる。

 その瞳はどこか寂しそうだった。たぶん、わたしも今似たような目をしていたと思う。