わたしはそんな森屋さんを見つめながら、ひそかに自分のことと重ね合わせていた。

 好きなのに伝えられないまま、永遠に離れ離れになってしまった。
 日本とイギリスに。
 わたしと青司くんは、そんな状態で十年も生き別れとなっていた。

 森屋さんと桃花先生は、「死別」というもっと悲しい別れだったけど。
 
 もだもだしていたら取り返しがつかなくなる。
 それは十年前に学んだことなのに……。
 わたしはまた、同じことを繰り返そうとしている。

 しばらくしたら、森屋さんは落ち着きを取り戻して、アイスコーヒーを飲み切るとさっさと帰っていってしまった。

 後にはまた、青司くんとわたしだけが残る。


 わたしは青司くんにスマホを返してもらってから、二つ目のフルーツタルトをいただいていた。

 フルーツはビタミンがたくさん入っているから体にいい、という理論を自分に言い聞かせて食べる。
 っていうのは、表向きで。

 実はもう少し青司くんと一緒にいたかったのだ。

 青司くんはなんとなくまだぼうっとした感じで、食器を洗っていた。
 桃花先生と森屋さんの関係に、いろいろと思いを巡らしているのだろう。

 ――わざわざ『二人きりになって』その相手に料理をふるまったりなんてしませんよ――

 青司くんが言った言葉。
 それは桃花先生の立場になって、想像して、放った言葉だったけど……。
 でも、もしそれが青司くんにも当てはまってたなら?
 青司くんもわたしを……? とかって少しでも思ってしまう。

 いや。
 それはたぶん違う。

 彼は単に喫茶店を開くためにやってるんだ。
 特別な想いなんて、ない。

 ――僕みたいに飲食店を開くわけでもないのに――

 そんなことも、言ってたし。桃花先生は単にプライベートで食事に誘っていた。
 でも青司くんは……あくまで、仕事の一環として、わたしに試食を頼んできてるだけなんだ。

 嫌いな人、にはこんなことお願いしないよね。うん。

 いくら仕事だって言っても、嫌いな人とはわざわざ一緒にこういうことしないもん。
 でも……「特別な人」、でもない。
 彼の「特別」にはなれなくても。
 少なくとも普通の好意は持ってくれてるって信じたい。

 幼馴染として。
 ご近所さんとして。
 元お絵かき教室の仲間として。

 それだけでいい。
 それだけでいい……はずなのに。
 やっぱり「特別」にも思ってほしいって、そういうわがままな心もある。