わたしもそうだったけれど、青司くんも体が小刻みに震えていた。
わたしは座っていたからまだいいけれど、青司くんは倒れないように必死である。
「どうして……」
「お茶をするのはその日が初めてじゃなかった。それまでも何度か、彼女の作った手料理をご馳走になっていたんだ。それで、勘違いしてしまったのかもしれない。俺はその日、勢い余って告白をしてしまった」
「え?」
ぽかんと口を開ける。
人間驚きすぎると誰もがこうなってしまうらしい。
え? なに? 桃花先生に森屋さんが告白……?
そんな恋心を抱いていたなんて……。今日は初めて聞くことが多いと思ったけど、なにもこんなことまで知ることはなかった。
わたしは、そう思っていたけど……。
でも青司くんは少しでもお母さんのことを知っておきたかったみたい。
じっと神妙な顔で、森屋さんの話を聞いていた。
「そ、それで……母に返事はもらえたんですか」
「いや。その時は、とりあえず考えさせてくれと言われたよ。でも結局そのまま……亡くなられてしまったから、ずっと返事は聞けずじまいだ。俺があんな驚かすようなことを言わなければ……きっと……」
森屋さんの両手が強く握りしめられていく。
その拳は固いカウンターの板に押し付けられていった。
「済まない。青司くん……」
そう言って深く頭を下げる森屋さんに、青司くんは泣きたいような笑いたいようなそんな変な顔を向けた。
「謝らないで下さい。たとえ母が森屋さんの告白に驚いたとしても……それで心臓発作を起こしたとしても……森屋さんは、何も悪くありません。だって母は……」
青司くんは玄関の隣の壁に飾られている、桃花先生の肖像画を見つめて言う。
「嫌いな人に、わざわざ料理を作ったりなんてしないですから。僕みたいに飲食店を開くわけでもないのに、わざわざ『二人きりになって』その相手に料理をふるまったりなんてしませんよ。それは、きっと勘違いじゃないです。母の真意は、もう訊けないからわからないですけど……たぶん、森屋さんの事、それなりに好きだったと思いますよ」
「……」
「返事をしないで死んだのは、母に代わって謝ります。きっと、どういう形であれ、きちんと答えを出したかったと思うんです。でも、いつも無理をしているような人でしたから……。俺がもっと早く成人して、稼いで、楽にしてあげられたら良かったんですけど」
そう言って、青司くんはふわっといつものように優しい笑みを浮かべた。
その頬を一筋の涙が伝う。
わたしは座っていたからまだいいけれど、青司くんは倒れないように必死である。
「どうして……」
「お茶をするのはその日が初めてじゃなかった。それまでも何度か、彼女の作った手料理をご馳走になっていたんだ。それで、勘違いしてしまったのかもしれない。俺はその日、勢い余って告白をしてしまった」
「え?」
ぽかんと口を開ける。
人間驚きすぎると誰もがこうなってしまうらしい。
え? なに? 桃花先生に森屋さんが告白……?
そんな恋心を抱いていたなんて……。今日は初めて聞くことが多いと思ったけど、なにもこんなことまで知ることはなかった。
わたしは、そう思っていたけど……。
でも青司くんは少しでもお母さんのことを知っておきたかったみたい。
じっと神妙な顔で、森屋さんの話を聞いていた。
「そ、それで……母に返事はもらえたんですか」
「いや。その時は、とりあえず考えさせてくれと言われたよ。でも結局そのまま……亡くなられてしまったから、ずっと返事は聞けずじまいだ。俺があんな驚かすようなことを言わなければ……きっと……」
森屋さんの両手が強く握りしめられていく。
その拳は固いカウンターの板に押し付けられていった。
「済まない。青司くん……」
そう言って深く頭を下げる森屋さんに、青司くんは泣きたいような笑いたいようなそんな変な顔を向けた。
「謝らないで下さい。たとえ母が森屋さんの告白に驚いたとしても……それで心臓発作を起こしたとしても……森屋さんは、何も悪くありません。だって母は……」
青司くんは玄関の隣の壁に飾られている、桃花先生の肖像画を見つめて言う。
「嫌いな人に、わざわざ料理を作ったりなんてしないですから。僕みたいに飲食店を開くわけでもないのに、わざわざ『二人きりになって』その相手に料理をふるまったりなんてしませんよ。それは、きっと勘違いじゃないです。母の真意は、もう訊けないからわからないですけど……たぶん、森屋さんの事、それなりに好きだったと思いますよ」
「……」
「返事をしないで死んだのは、母に代わって謝ります。きっと、どういう形であれ、きちんと答えを出したかったと思うんです。でも、いつも無理をしているような人でしたから……。俺がもっと早く成人して、稼いで、楽にしてあげられたら良かったんですけど」
そう言って、青司くんはふわっといつものように優しい笑みを浮かべた。
その頬を一筋の涙が伝う。