「そんな……まさか……。はあっ、はあっ……」


 胸が痛い。

 息が、切れる。

 水色のワンボックスカーは洋館の右手のスペースにバックで入ろうとしていた。わたしは急いで橋を越えて車の前まで行く。


「あ……」


 近付くと、ちょうど運転していた人と目が合った。

 男の人はハッとしたようにわたしを見る。


 ギッと音がしてエンジンが止まる。

 そして、運転席からゆっくりと降りてくる。


「……真白?」

「青司(せいじ)、くん?」


 目の前に「青司くん」がいた。

 九露木青司くん。

 十年前に引っ越していってしまった、わたしの幼馴染でもあり、そして……初恋の人でもあった。



 少し見た目が変わっていたが間違いなかった。

 サラサラの黒い髪に、眠そうな目。スッと通った鼻に、猫背気味の高い背。そして……この独特で落ち着いた低い声。


 もう会えないと思っていた。

 なのに……。

 急に世界がぱっと色を取り戻したみたいになった。

 青司くんの周りだけが、色鮮やかに輝いて見える……。