続いてイチゴやキウイも食べてみる。

 それぞれ旬だからか、他の時期よりも甘く感じた。

 果物の甘酸っぱさと、カスタードの濃厚な甘さが絶妙に絡み合っている。ああ、しあわせ……。


「森屋さんは、いかがですか?」

「……」


 森屋さんは無言でフォークを動かしている。

 甘党というのは本当で、その食べるスピードにいっさいよどみがなかった。

 あっという間に完食すると、さらに目の前に置かれていた水を飲み干す。


「ごっそさん。美味かった」


 一言そう言うとささっと椅子から立ち上がる。

 しかし青司くんはまだ何か伝えたいことがあるようだった。


「あ、あの……!」

「なんだ」


 つなぎの袖で口元を拭いながら、振り返る。


「母さんの……ことなんですけど」

「……」


 一瞬、森屋さんの表情がより厳しくなった。

 しかし立ち去るわけでもなく、根気よく青司くんの言葉を待ち続けている。


「森屋さんは……その……最後に母さんと会ったとき、何を話してたんですか?」

「……それを聞いてどうする」

「知りたいんです。あの日……母さんが倒れた日。最後に会っていたのは、森屋さんだったと思うから……」


 十年目にして初めて、わたしはその事実を知った。

 今日は初めて知ることが多いなと思う。

 え? どういうこと?

 桃花先生が亡くなる前、最後に会ってた人が森屋さん……?


 青司くんはカウンターを挟んで、じっと真剣な瞳で森屋さんを見つめている。


「いいだろう。俺もずっと話しておきたいと思っていたところだ」


 森屋さんはそう言うと、またわたしのとなりの席に腰かけた。

 空のグラスを青司くんに渡して、今度はアイスコーヒーをと所望する。


「わかりました。少々お待ちください」


 青司くんは手早く準備をはじめる。

 普通にコーヒーを作る要領で、まずはコーヒー豆を挽いた粉をお湯でペーパードリップする。

 こころなしかドリッパーの中の粉の量が多い気がした。

 そこへ、コーヒー用の細口のケトルでお湯を注いでいく。


「少なめに……と」


 ぼそぼそとそう言いながら、静かにお湯を垂らしていくと、やがてサーバーの中に濃い色のコーヒーが抽出されてきた。

 青司くんはその間に、急いで別のグラスに大きいロックアイスを入れる。

 フチまで目一杯入れたところに、全部のしずくが落ち切ったサーバー内の熱いコーヒーを注ぐ。

 ビキビキと急速に氷が解ける音。


「……お待たせいたしました」


 ミルクピッチャーと砂糖壺、ストローを共に出して、青司くんは森屋さんの顔色を窺う。

 森屋さんは何も使わずにそのまま一口飲んだ。


「うん……美味い」

「ありがとうございます」


 これは例の「青司くん特性ブレンド」なんだろうか?

 お礼を言った青司くんは、まだ緊張した面持ちで森屋さんを見つめている。

 森屋さんはグラスを置くと、手元を見ながら静かに語りはじめた。


「じゃあ、話すか。たしかあの日も、ここでフルーツタルトとアイスコーヒーをもらっていた……」