この人は、たしか青司くんのお母さん――桃花先生より何歳か年下だったような気がする。

 ということは、いまは五十近いはずだ。

 仕事で普段からよく動いているせいか、体がよく引き締まっている。強面でもあるが、とても若々しい顔つきの人だった。

 そんな人が甘党だなんて。
 ちょっと意外だった。

 危うくにやけそうになったので、わたしはごほんと咳でごまかして座り直す。


「真白には、さっきまでドリンク類を試してもらってたんです。でも実は、ケーキもあるんですよ」

「え? そうなの青司くん? いったい何のケーキ?」

「まあそう慌てないで。よいしょっと」


 そう言って冷蔵庫から取り出したのは、なんとカラフルなフルーツがたくさん乗ったタルトケーキだった。


「うわあ……!」

「本日はフルーツタルトです。季節のみかんとイチゴとキウイを乗せてみました」

「……」


 オレンジに赤に緑。

 となりの森屋さんを見ると、驚いたようにそれを見つめていた。


「どうかしました……?」

「いや。懐かしい、と思ってな」

「懐かしい……?」

「ああ」


 森屋さんはそれ以上は語らなかった。

 一方青司くんは大皿の上のケーキを、丁寧にカットしはじめている。

 一回切るごとに、お湯を入れた筒の中にケーキ用のナイフを入れ、ふきんで綺麗にふき取ってからまたカットしていた。

 そして白い皿にそれぞれ乗せられたケーキが、森屋さん、わたし、青司くんの順に置かれる。


「ええと、あと飲み物も出しますけど何がいいですか? 真白はホットティー?」

「あ、うん」

「俺は水でいい」

「え。水、でいいんですか?」

「ああ」


 わたしと青司くんはホットティー、森屋さんにはミネラルウォーターが配られた。


「ではどうぞー」

「いただきます」

「……いただきます」


 わたしはウキウキでフォークを持ち、みかんの部分からいってみる。

 さくさくのタルト生地と、その上のカスタードクリームを一緒にすくって口の中に放り込む。


「ん、んん~~っ、甘くて美味し~い! これ、みかんも生のフルーツなんだね!」

「そうなんだ。本当はこの上にナパージュっていう透明なゼリーみたいなものをかけておくと、パサつきも抑えられるしツヤが出て見栄えも良くなるんだけど……できたばかりだからそのままでも美味しいかなって。お店に出す時は時間が経っちゃうから、ちゃんとそういう仕上げするけどね」

「ああ~。たしかにお店で売ってるタルト系のケーキって、上にそういうのかかっていたかも!」