紺色のつなぎを着た、大柄な男性だ。

 わたしは真っ先に挨拶をした。


「あ、お疲れ様です」

「……」


 でも、見事にスルーされた。
 軽くショックを受ける。

 森屋さんはなんというか、いつも不機嫌そうにしている人である。険のある目つきというか、いわゆる強面と呼ばれる類の顔をしている。

 わたしは昔から、この人がなんとなく苦手だった。

 森屋さんは青司くんのいるカウンターまでくると、ぼそぼそっっと話しはじめる。


「北側が終わった。明日は南側をやる」

「あ……はい。わかりました。明日もよろしくお願いします」

「明日も朝一からでいいか?」


 本当にこの人はぶっきらぼうというか、必要最小限の会話しかしない。
 愛想もあんまりないし、接客業なのに感じ悪いなあとわたしは思っていた。

 ちなみに今も、笑顔を見せるどころかずっと無表情である。


「はい。庭はいつでも解放してますので、何時からでもいいですよ」

「そうか、わかった」


 青司くんの答えを聞くと、森屋さんはさっさとまた店を出ていこうとする。


「あ、ちょっと待ってください森屋さん……」

「……」


 青司くんは何か用があるのか、あわてて引き留めようとした。
 しかし、森屋園芸さんはまるで気付いていないのか、そのまま歩いていく。

 わたしはついに我慢がならなくなった。


「ちょっと森屋さん! 青司くんが話しかけてるじゃないですか! わたしはともかく、仕事相手でもある青司くんの話を無視するなんて……良くないですよ!」

「ま、真白……」


 青司くんがやんわりと制止するのも構わず、わたしは大声でそう言った。

 すると、森屋さんがようやく振り返る。


「ん? ああ……済まない」


 森屋さんはポケットから何か小さなものを取り出すと、それを両の耳の中に入れた。

 あれはいったい……?


「俺は難聴でな」

「え?」

「さっきの、よく聞こえなかった。いま補聴器をつけた。仕事中外していたのを忘れていた。悪かったな。それで? 何か用か?」

「あ……」