わたしはそのあと、最後のメロンソーダを手に取った。

 ケミカルな緑色。
 でもこれも炭酸水が入っているのでしゅわしゅわとしている。


「あっ、ちょっと待って」


 飲もうとしたわたしを制して、青司くんは冷凍庫からなにかを出した。
 それは市販品のバニラアイス。


「やっぱり喫茶店なんだから、『クリームソーダ』にしないとね」


 いつのまに用意したのか、青司くんはアイスクリームディッシャーを使ってアイスを丸く削り取る。そしてそれをポンとメロンソーダの上に乗せた。


「お店ではこれにさらにさくらんぼを乗せるつもり。母さんはこういうの家では作ったことなかったけど、でもどっかの喫茶店に連れていってもらったら、毎回俺これを注文してたんだ。大好きなんだ、これ」

「そうなんだ」

「うん。喫茶店やるなら、絶対これだけは外せないなあって思って。よくある味だと思うけど、一応これも大丈夫かどうか試してみて」

「うん……」


 わたしは青司くんからアイスをすくうためのスプーンを受け取った。

 その間も、乗せられたバニラアイスはもわもわと緑色のソーダ水に溶けていっている。

 わたしもこれは大好きだ。
 とくにこの、溶けかかったバニラとソーダが混ざったところ。

 ストローが置いてあったので、わたしはそれで目的のあたりを吸ってみた。


「ん~~~っ……!」


 えも言われぬ幸福感が襲ってくる。
 これは……懐かしすぎる。
 思わず小さい頃の記憶がよみがえってきた。

 わたしも昔、これをよく注文していた。
 家族でどこかに遊びに行った帰り、ファミレスとか喫茶店で休憩しているとき。
 わたしは飲み物の中でひときわ変わったものを見つけたんだ。
 それが、このクリームソーダだった。


「メロンなんか入ってない、ただの緑色の、かき氷とかにも使われてるシロップなのにね……なんでこういう形になるとめちゃめちゃ美味しく感じるんだろう。すっごく幸せ……」

「ほんと、不思議だよねえ」

「ね、青司くんも飲んでみない?」

「えっ、いいの?」

「うん。それとももう自分では作って飲んでみたの?」

「えっと、まだ……」

「じゃあどうぞ。はい」


 差し出されて、青司くんはわずかに目を見開いた。
 でも、すぐにストローを手にして、それを口に含む。

 あっ。
 しまった。
 これって、もしかして間接キスになっちゃうんじゃ……?

 って思ったけどもう遅かった。
 青司くんはすでにわたしが飲んでいたクリームソーダを飲んでいる。
 でも、飲みながら、なぜかこちらをじっと見られた。


「……っ」


 もしかして、わたしが間接キスを意識してるのバレてる……?
 ああ。い、意味深な目つき……。
 わたしはものいたたまれなくなって、視線をそらした。

 と、そこで誰かが、お店のドアを開けて入ってきた。

 姿を現したのは……森屋園芸の店長さん、森屋堅一さんだった。