「ああ、いや無理は言わないよ。ただ、お葬式にも行けなかったからね……せめて、とずっと思ってたんだよ」

「すみません。母の遺骨も位牌も……母の実家の方に預けてあるんです。ここからはちょっと遠くて。なので……」

「そうかい……」


 しゅんとなった大貫のおばあさんは、さらに小さくなったように見えた。

 いたたまれなくなって青司くんを見ると、何かひらめいたように顔を上げる。


「あ、でも……喫茶店をオープンしたら、ぜひいらしてください。まだ、今は準備中なんですけど……ぜひおもてなしをさせてください」

「え……あの、お店をやるのかい?」

「はい。四月くらいから喫茶店を開こうと思ってます」

「あらあら。まあまあ」

「そういうわけで、そのときにでもまた詳しくお話できたら、と……」

「この歳の老人はね、だいたいいつでも暇なんだよ。じゃあ、喜んでお呼ばれしようかねえ。楽しみだよ」

「……! ありがとうございます!」


 青司くんは途端にパッと晴れやかな顔になった。

 ああ、この顔。わたしのとても好きな顔だ。青司くんが喜んでいるとわたしも嬉しい。

 大貫のおばあさんは、それじゃあと言うと自宅に戻っていった。

 わたしたちもそれぞれ解散して、また夕方に会うことを約束した。