大貫のおばあさんは手に小さな紙袋を持っている。

 小柄な人で、肩に紫のショールをかけていた。


「昔のまま、青司くんって呼んでもいいのかねえ? でもこんな男前になっちまったら、もうくん付けはおかしいか……」


 そう言いながら、大貫のおばあさんはにこにこと笑っている。

 わたしはその言葉にちょっとムッとして言った。


「大貫さん、わたしだってもう二十五ですよ。それならわたしだってちゃん付けは――」

「ああ、真白ちゃんはまだまだ真白ちゃんだよぉ。だってこーんなにめんこいんだからねえ」

「うっ!?」


 そう言って、顔を優しくなでられる。

 わ、わたしは犬か。


「ほら、大貫さんもそう言ってる。な? だからやっぱり真白は可愛いんだって――」

「だーかーら! もう可愛いって言わないでよー!」


 振り返ってわたしは青司くんにも怒ってみせる。

 あっちもこっちも、わたしを少し子ども扱いしすぎではないだろうか。

 でもまあ、事実子供っぽいことは自覚しているので、こうして遺憾の意を表明するだけにとどめておく。


「あれあれ。寒いのに、朝からお散歩をしてきたのかい? ふたりで」

「ええ、まあそんなところです。十年の間にこの町が変わっていないかどうか、見ておきたくて。昨日は隣近所くらいしか回れませんでしたからね」

「ああ、昨日はどうもご丁寧に。わたしゃ九露木さんがここに帰って来てくれただけで、嬉しかったよ。あんなことがあって……隣がさびしくなっちまったからねえ」


 そう言って、大貫のおばあさんは感慨深げに青司くんちの洋館を見上げる。