「あ、でも、ホラ! お盆とかにはみんな帰ってくるからさ。あと、たまに遊んだりもするし。もっぱらわたしが東京の方に行くんだけどね。まあ、向こうにいる人の方が多いから――」
あははとわざと明るく笑ってみる。
青司くんはじっと地面を見つめ、それからぽつりと言った。
「じゃあ……絵は? 絵は、描いてる?」
「え?」
「まだ、絵は描いてるの? 真白も、みんなも……」
「えっと……」
「それとも、もう……」
すぐには答えられなかった。
だって、あれから全然描いていなかったからだ。正確には――全く描けなくなった、が正しいけれど。でも、それをすぐ青司くんに伝えるのは申し訳なかった。
わたしはすごく悩み抜いた後に答える。
「あの……。ごめん、わたしね……描けなくなっちゃったんだ。あれから」
「……」
「描こうとすると、思い出しちゃって。お絵かき教室のこととか、青司くんのこととか、みんなと笑い合ってた時間のこととか。あと……桃花先生のこととか。それからもう二度と食べられなくなっちゃった、先生のおやつのこととか。だから……」
「真白……」
「みんなはどうかわからない。わたしみたいに描けなくなった子もいるけど、デザインの仕事とか、そういう風に仕事として続けている子もいるし。人それぞれだと思う」
「そうか……」
本当に申し訳ない。
青司くんは、海外に行っても絵を描き続けて、それで成功したのに。
わたしは何もしないで、せっかく先生が教えてくれたいろんなことをいっさいがっさい封印してしまった。
幻滅、されたかな……。
そう思っていると、青司くんはタッタッと走っていって、少し先にある自販機のところまで行った。
そして、なにか飲み物を買うとこちらにすぐ引き返してくる。
「はい、これ」
「え?」
「コーヒー。今度ちゃんと、お店でも試飲してもらうけど。でも、今はあまり時間がないから、これで勘弁して」
「あ、ありがとう……?」
なんとなくお礼を言って、熱々の缶を受け取る。
青司くんはブラック、わたしは微糖と書かれたコーヒーだった。