いつのまにか、かなり先の竹林があるところまでやってきてしまった。

 今度は折り返して下流の方に向かって歩き出す。

 のんびり歩きながら、やっぱりこれは夢みたいだと思う。

 もしかして、今も本当のわたしは布団の中で寝ていてこんな夢を見ているんじゃないだろうか……。試しに右のほっぺをつねってみたが、普通に痛くて悲鳴を上げた。


「いたっ……」

「なにやってんの」


 青司くんが笑いながら呆れている。

 わたしはあわてて首をふった。


「や、別に……」

「あ、赤くなってる。どうした? 眠い? 眠気覚まし?」

「あー、うん……まあ、そんなとこ」


 そんなに強く引っ張ってしまったのだろうか。

 わたしは青司くんからそれ以上見えないように、顔をそらした。


「……ねえ真白ってさ、今までどうしてたの?」

「え?」

「いや。あれから……真白はどうしてたのかなって思って。教室にいた、他のみんなもだけど。あ、俺がこんなこと訊く資格は……ないのかもしれないけどさ」

「そ、そんな……」


 そんなことない。

 そう言おうとして青司くんを見ると、ひどく悲しそうな顔をしていた。

 わたしは、覚悟を決めて言う。


「そんなに褒められたことじゃないから、あんまり言いたくなかったけど……。うん。わたしは……わたしは高校を卒業したら、何かをやりたいとか特になくて、だからずっと……フリーターをしてたよ。今も。いろんなアルバイトをしてきたけど、今のファミレスは二年間くらい続けてる」

「そう……」

「うん。みんなは……東京の大学に行って、そのまま。今は向こうで働いてる。みんな地元から離れてっちゃった。残ってるのは……わたしくらい」


 残ってるのはわたしくらい。


「……」

「……」


 その言葉で詰まった。

 青司くんも。わたしも。

 わたしだけが残されている。

 その事実は、否応なく今のわたしを浮き彫りにしていた。それがひどく苦しいのだろう。青司くんはまた悲しそうな顔になる。ああ……そんな、彼をそんな気持ちになんてさせたくなかったのに。