「じゃあ、行こっか」

「どこへ?」

「とりあえずあっち」


 そう言って、青司くんは川沿いの道を上流の方に向かって歩きはじめた。

 ちなみにわたしの家から青司くんの家を見た時に、右手になっている方が上流である。

 点々と家が並んでいて、ときたま畑があって、そしてときたま工事現場みたいなところが続く。


「あんまり変わってないね」

「うん……」


 青司くんははーっと自分の手に息を吹きかけて、そのまま青いダウンコートのポケットに手を突っ込んだ。

 首をすくめて寒そうにしている。


「昔から寒がりだよね、青司くん」

「んー、だいぶあったかくなったと思ったんだけどね……。まだまだ寒いよ」

「イギリスって……日本より寒かった?」

「どうだろう。緯度的には北海道より少し北なんだけどね。でも海流の関係で温かくなってるから北海道と同じくらいだって言われてる。北海道に行ったことはないけどね」

「ふーんそうなんだ」

「雪もドカ雪って感じにはならなかったな……。ただ冬は暗くなるのが早かった。逆に夏は夜十時ごろまで明るかったよ」

「へえ、なんか変な感じ」

「うん。曇りの日が多くてね……。だからこういう晴れた日は貴重だった」


 そう言って、青司くんは空を見上げる。

 昨日もそうだったけど、今日も気持ちのいい晴天だ。

 わたしはふと昨夜の夕飯のことを思いだして謝る。


「あ、そうだ青司くん、昨日ごめんね。お夕飯……。うちで食べてく、って訊けばよかったね。帰ったらお母さんに誘えばよかったのにーって言われてさ」

「え? いや……そんなこと言ってたの? おばさん」

「うん。今頃きっとひとりで青司くん夕飯食べてるよ、可哀想に……みたいなニュアンスだった。あ、ご、ごめん……」

「ははっ、謝らなくていいよ。てかちょっと疲れてたから、昨日はわりとすぐ寝たんだ」

「そうだったの」

「そう。だから気にしないで。今度もし誘われたら、そのときはありがたく誘われるから。おばさんにもそう言っといて」

「……」


 笑いながら、青司くんがそうフォローしてくれる。

 なんで。逆だよ。

 ほんとはわたしがフォローしなきゃいけなかったのに。余計なことを言って、逆に気を使わせちゃった。ああ、もう失敗した……。


 急に恥ずかしくなって、顔をあげられなくなる。

 そしたらこけそうになってさらに恥ずかしくなった。


「わっ……」

「どしたの? 大丈夫?」

「だ、だいじょうぶ……」