ピルルルルッと急に前かごのバッグの中で着信音が鳴る。

 おそらく友人からだ。

 友人たちはみな東京の大学に行き、今はそれなりの会社に勤めていた。彼氏ができたとか、どこどこに旅行に行ったとか、最近はそんな報告をいつも聞かされる。

 正直うらやましい。


 けど――。


 わたしは、この桜が満開になっても、きっと次の春が来ても、今とあまり変わらない気がする。

 変わりたくてもどう変わればいいかわからないのだ。

 わたしは十年前にいろいろなものを失って、それからこの代わり映えのない灰色の日々をずっと繰り返していた。


「ん?」


 橋を渡って家の前に到着すると、川向こうに見慣れない車が走っていくのが見えた。

 水色のワンボックスカー。


「えっ?」


 それは思いがけないところで停まる。

 家の真向かい、つまり川の向こう側には真っ白い外壁の古い洋館が建っているのだが……そこの前に停車したのだ。

 その家は現在空き家だった。