食事を終えると、わたしは自分の食器を洗ってからお風呂に入った。
 
 湯船につかると一日の疲れが抜けていく。青司くんも、今入っているだろうか。

 お風呂から出ると、ちょうど帰ってきた父と廊下で出くわした。


「あ、おかえりお父さん。早かったね」

「うん、ただいま。真白……あれ? なんかあったか?」

「ん?」

「なんだか、顔色がいつになく良いように見えるから」

「え? べ、別に? お風呂上がりだからでしょ」

「そ、そうか?」

「そうだよ。あ、今日はおでんだって! じゃね!」

「えっ、おい……どうしたんだ」


 わたしはまたいろいろ訊かれそうになったのを察して、逃げ出した。

 母に訊かれるのはまだいい。でも父は、ダメだ。父に訊かれたら、きっと恥ずかしすぎてのたうちまわってしまう。


 階段をとんとんと駆け上っていると、下から母の「お父さん、お向かいの九露木さんがね、帰ってきたのよ」という声が聞こえてきた。

 あー、あれはこれからまるっと父に話す気だな。

 そう思うと、わたしは顔がまた熱くなってきた。自室に駆け込み、しっかりと内鍵をかける。


 わたしが、九露木さん家の息子さんを好きだということは、なぜか昔から家族の中で共有されていた。

 さすがに相手方の母子にそれをバラされるということがなかったのが唯一の救いだったが、それ以外はことあるごとにからかわれている。


「あー、もうこの後お父さんと顔会わせづらくなるじゃーん……。うー」


 母に加えて父のニヤニヤ笑いにもこれから遭遇せねばならないかと思うと、憂鬱だった。

 わたしは別の意味でも、あのお店で働くことが難しくなりそうである。

 毎日あの家に出向くだけで、いろいろ冷やかされるのが目に見えている。


 わたしはぼふんとベッドに倒れ込んだ。