「へえ……アトリエ兼喫茶店、ねえ。まあ、この辺に喫茶店ないからいいんじゃない? みんな会合とかは公民館か、遠い喫茶店しか使ってなかったしねえ。でも……あんたが真っ先に勧誘されるなんてね」

「そうなの。わたし今、別のバイトしてるし、手伝いたい気持ちはあるんだけど……」

「ふーん。まあ、これからどうなるにせよ、あんた……もう後悔だけしないようにしなさいよ」

「えっ……?」


 ちょうどこんにゃくをパクついていたわたしは、ハッとして母を見た。

 いつになく真剣な表情をしている。


「もう、あの時こうしておけば良かったなんて……後悔しないでよね。だから、よく考えて決めなさい」

「……う、うん」

「人生って、わりととりかえしがつかないことってたくさんあるんだから」

「わ、わかってるよ!」

「なんだっけ? チャンスの神様は前髪しかない、だっけ。もたもたしていると通り過ぎて、いざ掴もうと思っても後ろはつるつるだからつかめない、とかなんとか。って知ってた、真白?」

「青司くんは……ハゲじゃないよ」

「あははは……! まあ青司くんは、ずいぶんと男前に成長したからねえ。そうよね、大丈夫よね、フフフフフ」

「……」


 なんかもうそれ以上母についていけず、わたしは何も反応しないことに決めた。

 でも、さっきからわたしを見てずーっとニコニコしている。

 あーもう。なんなんだ! そんなに見られたら、おでんが食べづらいったらありゃしない。とっても美味しいのに、とっても美味しいのに……なんだか胸がつかえてうまく飲み込めなくなっちゃう。


「ほんと、良かったわよね……」


 母はそうしみじみと言いながら、リモコンでテレビをつけた。

 わたしはようやくちょっとホッとする。たぶんこれ以上突っ込まれたら泣いてしまっていただろう。