わたしは玄関で靴を脱ぎ、急いで洗面所に向かった。

 こんな動揺しきっている顔を母に見られたくない。見られたら、いったいどんな風に言われるか。


「……あー、からかわれたくない!」


 絶対なにか言われる。絶対そうに決まってる。

 だってわたしは十年間、ずっと「腑抜け」になっていて、家族みんなを困らせてきたのだから。いろんなことに興味を無くしやる気を無くし、ただただ生きてきただけだった。


 当然、そうなった原因もみんな知っている。

 桃花先生が亡くなって、青司くんが引っ越していって、あの川向こうの家に誰もいなくなってしまった。

 それが原因だってわかっているから……。


 だからきっと、母はバイトから帰ってきたわたしにイの一番で知らようとしたんだ。

 玄関口にいたのは偶然じゃない。


「はあ。草むしりだなんて……もうちょいマシな嘘つけばいいのに。お母さんたら……」


 夕方に草むしりなんて変だなって思ってたけど、やっぱりあれはわたしのためにあそこで待ち伏せていたんだと思う。もうほんと、素直じゃない。

 やれやれと思いながら、洗面所でお化粧を落とす。