ここは埼玉の片田舎にある、加輪辺町(かわべちょう)という町だ。
 観光スポットと呼べるようなところはどこにもない。
 平々凡々とした町である。
  
 国道の両側には田園風景がどこまでも広がっていた。

 遠くには荒川の堤防。

 傾きはじめた日。

 そして、三月上旬の風。


「うー、さぶっ」


 わたしこと羽田真白(はねだましろ)は高校卒業後、フリーターとして七年間いろんなところに勤めてきた。

 今のファミレスに落ち着いたのが二年前。


(は~、なんだかんだ二年も続いてるよなあ……こんなに忙しくなったのは初めてだけど……)


 ぼんやりとそう思いながら、荒川につながる支流沿いの道に曲がる。

 この川は大股で五歩ぐらいの幅しかない。

 ところどころに川に下りられる階段があって、橋がしばらくないところは対岸に渡るための飛び石も設置されていた。

 桜並木も川沿いにずっと続いているが、まだ蕾しかついていない。


 もうすぐ春だな、と思った。