「じゃあ……ぜひ、やりたいって思う」

「本当?」

「うん。でも……今日うちに来たときにお母さんから聞いたかもしれないけど……わたし今、ファミレスでバイトしてて。すぐには、その……」

「あー……そっか。たしかそんなこと、おばさんも言ってた気がするなあ。忘れてた」

「……うん。だから、ちょっと考えさせて」

「わかった。でも、真白にそう言ってもらえて良かったよ」

「え?」


 わたしはそれを聞いて、レアチーズケーキを食べていた手を止める。

 青司くんは紅茶を一口飲むと、ぽつりと言った。


「ここに戻ってきたら……真白に真っ先に手伝ってほしいって、思ってたからさ」

「……え」


 なに、それ。


「真白が、まったく別の所に引っ越していたりしたら、それはそれで違う人を雇わなきゃって思ってたけど……でもやっぱり昔のよしみっていうか、気心が知れた人との方がうまくやってけそうな気がして。だから……」


 そんな。そんな……。

 そんなこと言われたら、めちゃくちゃ嬉しくなっちゃうんですけど……。

 わたしは、約束を破られてずっと怒っていた。なのにそんなこと言われたら、一気に許してしまいそうになる。まったく自分でも現金な女だと思う。好きな人にちょっと甘い言葉をかけられただけで、すぐにこうなってしまうのだから。


 ――ねえ、騙されてるんじゃない?


 そんな声がどこかから聞こえる。


 ――ずっと忘れられて放っておかれたのに、ちょっと都合が良すぎるんじゃないかな? 十年の間に、青司くんはもしかしたら人が変わってしまったかもしれないよ? それなのになんで、そんな風にすぐ信じられるの? また急にいなくなられるかもしれないのに。



 わたしは、とりあえずその言葉を無視して、チーズケーキを食べ終えることにした。

 そうでもしてないと頭と心がどうにかなりそうだった。

 この空間ではまともに考えられない。そうだ、この話は一旦保留にしよう。うん、そうと決まれば「一時撤退」だ。