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 そして、三月の最後の週。

 よく晴れた日曜日。


「いらっしゃいませ!」

「ようこそおいで下さいました!」


 その日は「アトリエ喫茶・九露木」のプレオープンの日だった。


 店には、近所の人や、かつてのお絵かき教室仲間、そしてその家族など、たくさんの人たちが訪れていた。

 午後だけという時間限定で開店したのだけれど、そのあまりの人数にわたしたち二人だけでは手が回らなくなってしまい、急きょ紅里がピンチヒッターになってくれた。


「もう! あのハッタリが現実になっちゃったじゃないの! 今日だけだからね!」

「ゴメン、ありがとう紅里!」


 紅里は結局あのレストランでは働かず、もう一度、別の広告代理店の面接を受けることになったらしい。

 代役も、宣言通り見つけてきてくれた。

 いとこの子がちょうどバイト先を探してたようで、紹介したら見事採用されることになったそうだ。


「あのう、このレアチーズケーキがほしいんですけど……」

「すいません、もう売り切れとなっておりまして」

「ではこっちのパンケーキはありますか?」

「はい」

「ではそれを」

「かしこまりました」


 あらかじめ用意しておいたケーキ三種(レアチーズケーキ・フルーツタルト・ぶどうのムースケーキ)はすぐに売り切れ、あとは飲み物とパンケーキくらいとなってしまった。

 それでも、ひっきりなしにお客さんはやってくる。


「おい、青司。このあいだのカレーはないのかよ?」

「ああごめん、黄太郎。今日はランチやってないんだ。また今度、オープンしたら食べに来てよ。今度は辛さを調節できるようにしておくからさ」

「ちぇっ」


 カレーもランチで提供してみたかったが、そこまでやるといっぱいいっぱいになってしまうのではと、プレオープンはスイーツだけに絞っていた。

 でもみんな、文句を言う人はひとりもいなかった。

 かつての昔話に花を咲かせていたり、店の端に置いておいたスケッチブックに記念の絵を描き残して行く者がいたりと、わりとそれぞれに楽しんでいる人たちばかりだったのだ。