「あ、あの、本当に告白しに行くの?」

「そうだけど? なに、なんか文句あるの?」

「いや、な……無い、けど……」

「ふふっ。真白、安心してよ。本当は告白しに行くわけじゃないからさ」

「えっ? ほ、本当は……?」

「ふふ。本当は、真白の代わりにあたしを雇わないかって、言いに行くんだよ」

「えええっ!?」


 今度こそ驚いた。

 本当に紅里はなにを言い出すんだろう。

 さすがに焦った。


「え、ちょっと待って。紅里……それは」

「待たないよー」


 シャーッとペダルを漕いで公園を出る。

 行き先は、たぶん青司くんの家だ。
 わたしは急いで紅里を追いかけた。


「ちょっと。紅里、本気!?」

「そうだよー。でもいいじゃない。決めるのはあくまでも青司くんなんだからさ。言うだけ言ったっていいでしょ? 断られるんだったら断られてもいいし。てか真白、あんたまだ前の職場辞められないんじゃなかったの? 新人が補充されるまでは辞められないって言ってたよね?」

「そ、それは……」

「そのあいだ、あたしが真白の代わりに働いてあげればさー、青司くんも助かるんじゃないのかなー。ちょうどあたしも次の仕事を探してる最中だったし。まさにぴったりな条件だと思うんだ」

「ま、待って。待ってよ紅里!!」


 ひときわそう大声で叫ぶと、紅里はキキッとブレーキをかけてくれた。

 わたしはようやく追いつき、紅里の横に並ぶ。


「待って、って言った? 真白」

「うん。言った。待ってって。お願い、それだけは……」

「お願い? どうして? なんでそこまで言われなきゃならないの? 別にやましい気持ちなんてないんだよ? 働かせてって言うだけ。さっき好きだって言ったけど、勝ち目はないんだって思ってるし。逆に真白はどうしてそこまであたしを引き留めるのよ」

「それは……」


 わたしは息を整えると、言いづらかった言葉を一息に言った。


「それは、嫉妬しちゃってるからだよ!」


 言った後、猛烈に顔と体が熱くなる。

 熱に耐えられなくて、わたしは巻いていたマフラーを外した。


「まだわたしだけの青司くんでいてほしい……。開店したら、紅里の言うようにお客さんから好意をもたれるかもしれない。それは、それで仕方ないと思う。でも……それまでは……わたしだけの青司くんでいてほしいんだ。だって、だって十年間思いつづけてきたんだよ。昼も夜も青司くんのことばかり考えて。もう二度と会えないって……思ってたのに。ようやく、ようやく会えたんだよ……」

「うん。そうだね。それは、わかってるよ。でも、現実問題、真白はちゃんとそこで働けるって確約できてないよね? お互いの気持ちだって、きちんと確定できてないよね?」

「それは……」

「あんたの気持ちは、その程度なのかって言ってるんだよ!」


 強くそう叫ぶ紅里に、わたしは圧倒された。

 何も言えないでいると、紅里はまたペダルを漕ぎはじめる。

 待って。待って。行かないで。